「君は人間だけど人間じゃない。君には心がないんだね。」


 繋ぐ手の力を強くして、彼はまっすぐ私の瞳を見つめた。全身を黒に統一した彼の姿は、雪に覆われたこの世界でひどく浮いていた。



「遠い昔に失くしてしまったの。」



 同じように彼の瞳をまっすぐ見つめると、彼の赤い瞳が少し揺らいだ。知ってる。これは彼が悲しいときの証拠だ。
 誰かが落し物として私の心を届けてくれたら良かったのだけどね。
 すこしおどけて言ってみると、彼は小さく喉でくつくつと笑った。知ってる。彼が楽しい時の証拠。こっちの方がずっといい。



「心を失くしてしまって君は悲しいの?」


「悲しい、というのがよくわからないけど…。」



 心がない私には感情もない。だから悲しいと言う気持ちもわからない。彼のように、瞳を揺らすことも、喉でくつくつと笑うことも私にはできない。彼と出会うまではそれが当たり前だと思っていたのに。不思議なことに、私の何かが変わってきている。



「貴方が私を愛してくれているのに、私が貴方を愛することができないのは、悲しいことなんでしょう?きっと、…私は悲しいわ。」



 コーヒーメーカーに残っていたコーヒーを、彼と私のカップに半分ずつ注いだ。静寂に包まれていた空間に、ポトポトと音が落ちた。両手にカップを持って彼に差し出すと、彼は私の両手ごと大きな手で包み込んだ。



「俺は必ず君の心を見つけると約束するよ。心のある君に、俺のことも愛して欲しいから。」



目と鼻がつんと痛くなって、暖かいものが頬を流れた。視界が歪んでしまって、彼の顔がよく見えない。私は涙を流しているんだ。



「私の心を見つけて。」



彼は私の瞼に優しく、唇をつけた。





世界の終わりの世界で君と約束

20110411
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