どうして私、臨也と付き合ってるんだろう。ぐちゃぐちゃと挽き肉をこねていると、突然その疑問は私の頭の中に現れた。臨也がメールでハンバーグを食べたいと言っていたのを思い出して作り始めたのはいいものの、今日臨也が家に来るなんて一言も、聞いてないんだった。今日はホワイトデーで、世間ではお返しのお菓子だのアクセサリーだので賑わっていた。その街の雰囲気に乗せられて。人々が幸せそうに歩いてる姿に流されて。
 大変な事実に気が付いた時は1個分の玉葱のみじん切りが終わった時だった。涙がぼろり、ぼろり。

 長い付き合いの臨也と恋人関係になったのは1ヶ月前のバレンタインデーことだった。友達以上恋人未満の関係は、臨也の「俺達そろそろ付き合おっか。」の一言で終止符が打たれた。特に断る理由もなくて出した答えはYES。毎年なんとなくあげていたチョコレートが今年だけはどこか特別なものになった。
 付き合い始めたからと言って、私たちの関係は何一つ変わらない。月に会うのは2、3回。会ったからといって手を繋ぐことも抱きしめることもキスをすることもなく、ただ側にいるだけ。それが心地好いから不満もないけど、これって付き合っている意味あるのだろうか。私と臨也、何故付き合っているんだろ。



「やぁ名前。お邪魔するよ。」


「…え、臨也?」


「面白い顔してるね。あ、ハンバーグ作ってくれてるんだ。」



 横から手元を覗きこまれて、ふわりと臨也のシャンプーの香りがする。あ、本物の臨也だと思った。来ると思っていなかった臨也の突然の来訪に驚きつつも、会えたことが素直に嬉しくてほっとした。ケーキ買ってきたから入れとくね、と臨也が冷蔵庫を開けている間に挽き肉で汚れた手を洗う。綺麗な楕円の形をしたハンバーグもラップをして冷蔵庫に寝かせた。いつの間にか臨也がコーヒーを入れてくれていたのをソファーに隣同士座って飲んだ。私の家での二人の指定席はいつもここ。



「名前さぁ、今日が何の日か知ってる?」


「それくらい知ってるよ。ホワイトデーでしょ?」


「ブッブー。半分せーかい。…今日で付き合い始めて1ヶ月だろ?というわけで、はい。ホワイトデーのお返し。」


「え…」



 まさか臨也が付き合って1ヶ月とかそんなことを覚えているなんて思っていなかった。毎年臨也からホワイトデーのお返しは貰っていたけど、今年は特別。小さな可愛らしい箱が掌に乗せられて、ドキンと心臓が跳ねる。もしかして、指輪?慌てる心臓を落ちつけながら丁寧に中身を開けると高級そうなシルバーの指輪がちょこんと入っていてくらりと目眩がした。



「先に言っておくけど返品不可だから。あと、極力は常に嵌めといて。ああ別にGPSが仕込まれてるとか、そんなことは絶対ないから。」


「え、でも、なんで指輪…。」



 右手の薬指に指輪を嵌めて貰うと、驚くことにサイズはぴったりだった。きらりと光るそれはまるで星みたい。



「…指輪が独占欲の証だって言ったらどうする?」



 それは私には甘美すぎる言葉で、一瞬意味を理解できなかった。いつもよりどこか熱っぽい瞳で見つめられて私は思わず…‥―笑った。全く持って空気を読めなさすぎるほどに。声を堪え肩が震えまくっている私を見て臨也は当然の如く…‥―拗ねた。



「ごめっ臨也…ふふっ。」


「もういい。名前の馬鹿。知らない。」


「アハハッ…ごめんごめん。今の笑いは…私なりの照れ隠しだから。ね?」



 ソファーの隅っこで背中を向けている臨也に、自分の背中を合わせて寄り掛かる。直接顔を見るのは恥ずかしい。だけど臨也に触れたかったから。



「さっきまでなんで臨也と付き合ってるのかずっと考えてた。付き合ってても恋人らしいことは何一つしないから、別に前みたいな関係でいいのかなって。でも、わたし臨也のこと好きだ。好きだから側にいて楽しいし会えると嬉しいし指輪貰って独占したいって言われても全然嫌じゃなくてむしろ嬉しくて…なんていうか、ありがとうね臨也。…指輪嬉しい。」



 急に背中から臨也が消えたと同時に、視界が臨也でいっぱいになる。キスしてる、そう気付いた時には体中が熱くなって心は温かくなった。長い間唇を重ねたままでそれが離れると、臨也が真っ赤な顔をして好きじゃなかったら告白しないよ馬鹿と言いにくそうに言葉を紡いだ。
 まるで私たちは恋を覚えたての子供で、自分たちの思いを素直に伝えることにひどく不器用なのだ。こんな風に恋人らしいことをするのも悪くないなと、照れてるのを隠そうとする臨也を見て思った。




20110314

title by アメジスト少年

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