自動ドアをくぐり外に出ると空は闇色に染まっていた。星は見えなくてもネオンのおかげで街は明るい。室内の温度に慣れてしまったせいで、外はやけに寒く感じた。 この店にもなかった。仕事帰りに回った3件の書店を思い出す。キキララのムック本。可愛いポーチがついてるやつ。ネットで宣伝を見てからずっと探しているのにどの書店でも売り切れていた。ずいぶん前から発売してたらしいし手に入れるのはもう難しいのかなぁと思うと、大きな溜め息が出た。欲しかったなぁ。 冷蔵庫にじゃがいもが余っていたのを思い出してスーパーに寄った。今日の夜ご飯はポテトサラダにしよう。キュウリとハムと同棲している彼のためのタバコを買って店を出た。静雄はたまにタバコを切らしてイライラしていることがあるから、予備のために。スーパーの小さな書籍コーナーにもキキララの本はなかった。また大きな溜め息をついた。 ただいまーと玄関の戸を開けると静雄は玄関で靴を履いていた。どこか出かけるの、と私は問う。タバコ切らしちまったから買ってくる。静雄は靴紐を結びながら言った。 「あ、私タバコ買ってきたよ。」 「お?」 「予備のために買っておこうと思って。ちょうど良かったねー。」 「サンキュ。すげーいいタイミングだな。」 「私と静雄の愛の力だね。」 「バーカ。」 くしゃくしゃと私の頭を撫でながら、静雄は子供みたいに笑った。私も同じように笑った。 ポテトサラダ作るから先にシャワーしちゃっていいよ。冷蔵庫からじゃがいもを取り出しながら静雄に話し掛ける。じゃがいもは3つでいいかな。卵もあるしゆで卵にして一緒に入れちゃおう。美味いよと出来上がったポテトサラダを食べる静雄を想像すると嬉しくなって、頬が緩んだ。 名前。こっち向け。といつの間にか傍にいた静雄に呼ばれ、じゃがいもの皮剥きに集中していた顔を上げる。お前が欲しがってた雑誌ってこれだろ。持っていたじゃがいもがぽとんと床に落ちた。なんと静雄の手からはあのキキララの可愛いポーチ付きムック本が差し出されていた。 「ええー!なんで!!」 「今日たまたまコンビニで売ってたの見つけたんだよ。お前見つからないってずっと言ってただろ。」 「そう!そうなの!わーすごい嬉しい!静雄ありがとう!」 「おう。俺も欲しかったタバコもらったしな。」 「ずっと探してても見つからないからもう諦めようと思ってたのに。静雄すごい!」 「…愛の力ってやつかもな。」 自分で言ったくせに照れている静雄を見てまた頬が緩んだ。私、静雄を好きになって良かった。大好き。ぎゅうっ静雄に抱き着くと静雄も私の背中に腕をまわして優しく抱きしめてくれた。やっぱり静雄、シャワーはご飯の後で一緒に入ろうよ。スリッパの爪先にじゃがいもが当たって、ころりと転がった。 20110302 恋人たちは今夜も甘い夢を見る title by レイラの初恋 |