「トムさん好きです!」


「…名前ちゃんは俺が借金の取り立てってことわかってんのかな?」



もちろんわかってます!と返事をするとトムさんは呆れたように首の裏をさすった。トムさん今日も相変わらずかっこいいなぁ。大量の借金を抱えたお父さんがうちに帰ってこなくなってからトムさんは毎日うちにやって来る。最初に会った時は怖くて泣いてしまいそうだったけど、私を残してお父さんがいなくなったことを話すとトムさんは、そりゃお前辛かったなぁと言って私にお寿司を奢ってくれた。金がないなら身体で払ってもらおうかお譲ちゃんなんて想像してた私はすごくすごく安心して、ぼろぼろと泣いてしまった。トムさんは優しく頭を撫でてくれて、私の話を聞いてくれた。トムさんはすごく聞き上手で、ひとり残された不安とか怒りとか聞いてて楽しくない話にも丁寧に相槌を打ってくれた。優しくて、人の気持ちを考えられる人なのだ。こんな素敵な人を好きにならないわけがない。私を残して消えてしまったお父さんは許すことはできないけど、こうやってトムさんに出会えたことには感謝したい。



「親父さんまだ帰ってこないか?」


「…すいません。」


「いや、名前ちゃんが謝ることじゃねぇべ?つうか名前ちゃんの生活費とか大丈夫なのかよ?」


「あ、私は日払いのバイトを始めたのでなんとかやってます!」



なんとか生活だけは少ないお金でやりくりをしている感じだった。家賃だけはお父さんが前払いしていたのか、未だに追い出されていないのが唯一の幸運だったと思う。トムさんに会っている時以外はほとんどバイトばかりで身体は悲鳴をあげているけど、トムさんに会えるとそれも一気に回復する。トムさんが何故か疑うような目つきで何のバイト?と尋ねた。ファミレスのお皿洗いです!24時間営業の!そう答えるとトムさんは安心したように笑った。



「まったく…なにか怪しいバイトでもしてんのかと思った。」


「え!?トトトトムさんもしかして…私のこと心配してくれたんですか…?」



トムさんは私の質問には答えないで、無言で私の頭を撫でた。う…うわああ…!!なんかすっごく嬉しい!!やっぱりトムさん好きです!大好きです!本日2回目の告白にトムさんはそーかそーかと返事をした。あまり相手にされていないような気もしたけど、そんなこと気にならないくらい私の心は舞い上がっていた。



***



お味噌汁を作りながらそろそろトムさんが来る時間だなぁと時計を見る。トムさんいつも飯はジャンクフードばっかりって言ってたから食べてくれるといいな。お金がないからほんとにお粗末なものしか出せないけど…。ピーンポーン。部屋の呼び鈴が鳴る。きっとトムさんだ!はーい!とエプロンで手を拭いて玄関に向かった。



「名前…。」


「……お、とうさん。」



扉の向こうにいたのは、行方がわからなくなっていたお父さんだった。絶対許さない、もう会いたくないと思っていたのにいざ会ってみるとやっぱり帰ってきてくれたことが嬉しくて涙がでた。一体今までどこにいたのよ。涙声でそれだけしか言えなかった。中で話そう。ひどく疲れた顔をしたお父さんに、小さな子供みたいにただ後ろをついて行った。



「今まで迷惑掛けたな…名前。」


「…借金あるんでしょ?私も働くから、お父さんも働いてよ…!」


「…もう、無理なんだ。」


「え?」


「もう無理に決まってるんだ、それに…疲れた。名前だってそうだよな?」


「おとうさ…。」


「な?そうだよなあ?」



お父さんの大きな掌が近付いてきて私の首に絡みついた。お父さん。もう一度呼ぼうとすると、絡みついた掌が私の喉を絞るように絞めつけた。声を出すことも息をすることもできなくて、必死にその手を振り払おうと身体を捩るが圧倒的な力の前でそれは全くの無意味だった。苦しい、苦しいよお父さん。霞む視界の中で父の顔を見ると、その顔は以前の様な赤みのある頬をしておらず、顔を土色にした無精髭面の父が腕の先にいた。暫らく会っていないうちに随分老けてしまったみたいだ。私が一人だけで家にいる間、この人も同じくらい寂しくて孤独だったのかもしれない。私もきっと、トムさんに出会えていなかったらきっとお父さんみたいになっていたんだと思う。ねぇトムさん。私死んでしまうかもしれません。何度も告白したけど、私の好きって思いはトムさんにちゃんと伝わっていたのかな?告白の返事は1度もしてもらったことなかったけど、私のことどう思ってるのか知りたかったな。もう会えないのかな。会いたいよトムさん。



「名前ちゃん!!」



意識の遠くで、声が聞こえた。首を絞めつけられていた感触がすっとなくなって、私は大きく咳き込んだ。死んでない。生きてる。でもどうして?朦朧とする意識の中で、顔をあげる。開けっぱなしの玄関に、トムさんに殴られているお父さんがいた。トムさんが、助けてくれたんだ。トムさんはお父さんになにか怒鳴った後、背の高いバーテン服の人(誰だろう?)がお父さんを家の外に連れて行ってしまった。トムさん。呟いた小さな声は届いたみたいで、トムさんが靴も脱がずにこっちに駆け寄って来た。



「名前ちゃん大丈夫か!?」


「トムさん…。」



震える手でトムさんのシャツに縋り付くとトムさんはそっと私の肩を抱きしめてくれた。優しく頭を撫でられて強張った体が少しずつ落ち着いてくる。トムさんは私のヒーローだ。私を安心させてくれる、かっこよくて、優しいヒーロー。



「トムさん好きです。」


「…うん、知ってるよ。」


「もう言えないかと思いました。トムさん好き。大好き。」


「…仕事相手に、困ったもんだな。」



俺も名前ちゃんのことが好きだ。少し苦笑いをしながら頭を撫でてくれるトムさんを見て、愛しさで胸が苦しくなった。好きすぎて、泣いてしまいそう。トムさんの肩に顔を埋めて、愛の言葉を繰り返した。何度言ったってトムさんへの好きと言う気持ちは私の中から溢れてくる。




好きだよ、大好きだよ
20110213
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