多分兄さんならあそこにいると思う。幽くんに言われた通り近所の公園にやってきた。あ、早速みーっけ。探していた静雄くんはブランコに一人腰かけて俯いていた。落ち込んでいるのがすごくわかりやすいなぁ。誕生日にするような顔じゃない。少しでも元気になって欲しくて、私はそろりそろりと静雄くんの背後に歩み寄った。よしよし全然気付いてないぞ…!静雄くんは幽くんと違って鈍いなぁ。笑い声が出そうなのを堪えながらその小さな背中にぎゅうっと抱きついた。「しーずおくん!」「!名前ッ!?」静雄くんは一瞬だけ驚いた顔をして、またすぐに悲しそうな顔をした。そんな顔、して欲しくないのにな。ぐぐぐっと私の腕を外そうと静雄くんは腕を回した。負けるもんかと、私も抱きしめる力を強くする。あう、いたた…!「離せよ!どっか行け!」「ちょっ…やだよ!ていうか暴れないで!あいたっ!」「…!ごめっ!」自分の力に気付いたのか、静雄くんは私の腕の中で大人しくなった。暴れたせいで静雄くんの乗っていたブランコが僅かに揺れる。さっきよりも酷く傷付いた顔をして、もう俺に触んなと消えてしまいそうな声で静雄くんが呟いた。「…また暴れちゃったんだって?幽くんから聞いたよ。」「……。」「でもそんなのいつものことじゃない。せっかくの誕生日なんだからそんな暗い顔やめようよ!」プリンでも食べて元気だそう!さっきコンビニで買ったプリンとスプーンを静雄くんの手に握らせて、私も隣のブランコに座った。一応プリンは私からの誕生日プレゼントだ。バイトもできない中学3年の私にはお金がない。それでも一応一番高いプリンを奮発して買ったんだけど。「誕生日おめでとう静雄くん!」「…あの、名前は俺のこと怖くないのか?」「…怖い?」「…俺の力のこと。」こんな力、おかしいだろ。化けもんみたいじゃんか。俺、すぐにキレるし暴力ばっかだし嫌だろ?さっき私が握らせたコンビニのスプーンが静雄くんの手の中でぱきぱきと音をたてる。粉々になってぱらぱらと、それは地面に落ちていった。静雄くんの力のことは昔から知っている。静雄くんがその力を最も嫌っていることも。なんで俺普通に生まれてこれなかったのかな。なんでこんな力持っちまったんだろうな。精一杯強がった声で、消えてしまいそうな声だった。「ときどき思うんだ。俺、いつかひとりぼっちになるんじゃないかって。」「…ばかー!!」気付いたら私は大声で、叫んでいた。これでもかというくらい大きな声で。静雄くんにはお父さんもお母さんも幽くんもいるでしょう!私だっているでしょう!そんな寂しい事言うなばか!静雄くんは今度こそ本当に心底驚いたという顔をしていた。「ばか!ほんっとにばか!」「…ごめん。」「そんなんだからテストでいつもいい点取れないんだよ!ばか!」「…」「ばか!治しようがないバカ!!」「…いい加減しつけえええ!!!」ものすごい音がしたと思ったらブランコが変な方向に曲がっていた。ぎゃああああ何やってんのそれ公共物だよばかああ!!!というのは心の中だけで叫んで、静雄くんに謝った。幸いポケットに入っていた飴玉をあげたら落ち着いてくれた。「でもさ、そんな寂しい事もう言わないでよ。」「…わかった。俺も、ごめん。」「私ずっと静雄くんと一緒にいるから。その力で、ずっと守ってよ。」私だって小さい時から静雄くんと幽くんの面倒を見たり、遊んだりしてきたんだ。これからもずっと兄弟みたいに一緒にいたい。ばか!恥ずかしい事言うなよ!と何故か静雄くんは怒っていたけど、キレることはなかった。良かった、元気は戻ったみたいだ。もしかして照れてるの?とからかえば仕返しにデコピンをされて、私はブランコから吹っ飛んだ。痛いけど、そんなの全然気にならなかった。2011.1 28 title by たとえば僕が(それから約10年後、大人になった静雄くんに求愛されるのはまた別の話。)