「Psychedelic Dreams。」これはいつの日のことだったっけ。「お前はマスターの命令だけを聞いてればいい。感情などない、ただのホムンクルスだ。」「はい、マスター。」「忘れるな、お前は人間ではない。」忘れることができない記憶。俺は機械だから忘れるなんて機能はマスターが削除しない限りできないのに可笑しいなって心の中では思ってた。俺は人間によって作られた存在だ。そんなことマスターに言われなくてもわかってるよ。
でも感情というものはなんだろう。
わからない。俺の中で感情を検索してもヒットしない。
それともこれが感情がないってことなのかな。・
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「サイケくん?大丈夫?」
「……名前ちゃん……?」
「怖い夢でも見た?うなされてたよ。」
「怖い…夢…。」
ぼんやりと真っ白な天井を眺める。懐かしい夢を見ていた。ここにくる前の、今とは正反対な生活をしていた頃の。視界に名前ちゃんの顔が入ってきたと同時に、額に冷たい感触がはしる。
「今日は寝てないと駄目だからね。」
「……え?」
「風邪で熱があるって臨也くんから連絡があったの。朝倒れたって言ってたけど覚えてない?」
そういえば今朝調子が悪くてふらふらしてた気がする。倒れたことは覚えてないけど。風邪をひくとか倒れるとか名前ちゃんは俺を人間みたいに言うけど、どこかの機能の不調かバッテリー切れとかだろう。
「臨也くんとデート行かなくて良かったの…?」
「え?」
「今朝、臨也くんが言ってた。」
今日は名前とデートに行くって嬉しそうに話していた臨也くんは、いつもの悪そうな笑い方じゃなくてすごく自然に笑ってたっけ。あんな顔する臨也くんは珍しくて気持ち悪かったけど、どれだけ名前ちゃんが好きかがよくわかった。こんなところは臨也くんすごくわかりやすい。
「臨也くん、今日はやめようって言ってたよ。」
「…そっかぁ。」
「それと臨也くんの買い物に付き合うだけで、デートじゃないからね。」
「…まぁ、名前ちゃんが言うならそれでいいよ。」
お粥作ってくるから待ってて、と言って名前ちゃんは部屋を出て行った。臨也くん、怒ってるかなぁ。…当たり前か。また邪魔しちゃったし。
「サイケー大丈夫?…って何で起きようとしてんの。」
「! 臨也くん。」
「お前一回熱測れ。まだ高そうだし。」
体温計を渡されてまたベッドに横にさせられる。フカフカの布団をかけられると、臨也くんが顔を覗きこんでくる。
「なんか欲しいもんとかある?」
「…臨也くんが優しいと気持ち悪い。」
「病人には誰でも優しくするものだよ。」
「…怒ってないの?」
「はぁ?」
「デート行けなかったでしょ。」
俺のせいで。小さく呟いた最後の言葉は臨也くんに聞こえたんだろうか。なんだか怖くなって目を閉じて布団で顔を隠した。
「馬鹿。そんなことで怒るわけないだろ。」
「………。」
「気にしないで、自分の病気を治すことだけ考えなよ。」
「…病気って、人間じゃあるまいし…。」
「君は機械でもある人間だよ。感情もあるし体調不良だってある。…どっかの風邪ひとつ引かない喧嘩人形よりよっぽど人間らしいよサイケは。」
そういって、ぐしゃぐしゃと臨也くんが頭を撫でてくる。俺には感情なんてないはずなのに、嬉しくて少し泣きたくなった。
「サイケくーん。お粥できたよー。」
「ちょ、名前。鍋熱いから出来たら呼んでって言ったじゃん。」
「臨也くん心配しすぎだよ」
「……あのね、臨也くん。名前ちゃん。ごめんね。」
「サイケくんが謝ることじゃないよー!」
「違うの、今日二人ともいないと思ったからね。俺暇だから誰かと遊びたいと思ってね。…ツガルと静雄ここに呼んじゃった。」
「……はぁ?!」
僕らに愛される君その数秒後、玄関が破壊された音が俺達に響き渡った。
(今回は俺の負けだね。)