受験生に正月休みなんてものは存在しない。大晦日の日は紅白もガキ使も我慢して勉強して気が付いたら年は明けていた。三が日も塾の自習室で勉強。そんな日々を繰り返していたら今日で冬休みは最終日になってた。当たり前のように今日も塾へ向かっていたとき、年が近そうな女の子二人とすれ違った。バーゲンに行ってきたのか、ショップバックをたくさん手に抱えて話している二人はすごく楽しそうで、私は何してるんだろうと思った。私だって毎年バーゲン行ってたのに。冬休み中、好きじゃない勉強ばっかして何やってたんだろう私。



「あれ?苗字さん?」



塾へは行かず近くのコンビニに入って雑誌を立ち読みしていたら声を掛けられた。雑誌から目を上げると隣にはジャンプを持った折原くん。ずっと隣にいたみたいだけど私服だったから気づかなかった。何してるの?と尋ねると折原くんは妹達に買い物頼まれたと苦笑した。折原くんに双子の妹がいるという話は前に聞いたことがある。きっと美人さんに違いない。
そういえばあいつシズちゃんと上手くいったらしいよと言われ自分の親友の顔を思いだす。折原のくんと知り合ったきっかけは、折原くんの幼なじみが私の親友だったからだ。学校での折原くんの評判は良いものではないけど、あの子に臨也くんと呼ばれる彼を見ていると彼の評判は全くの嘘の様に思える。親友からクリスマスパーティーに誘われていたけど、その日は塾の模試があって断っていた。あとから告白できたよ!と電話が来てそれ以来あの子と話していない。一緒にバーゲン行きたかったな…。



「そういえば苗字さん受験勉強で忙しいって聞いたけど。今日もこれから塾?」


「あー、えっと…。」



サボったとは何故だか言い出し辛くて言葉を濁していると折原くんは安心させるように笑った。無理して言わなくていいよ。それは塾をサボったことは悪くないよと言われたような気がした。折原くんは鋭いから、私が塾をサボっていることわかったのかもしれない。



「ねぇ苗字さんは初詣行った?」


「初詣?行ってないなぁ。」


「じゃあさ、これから一緒に行かない?苗字さんの合格祈願しに行こうよ。」


「え?!や、いいよいいよ。そんなわざわざ…!」


「俺がしたいからいいの。ね?」


あ、あいつも誘ってみる?と折原くんが携帯を取り出す。電話の相手は親友で、微かに携帯から声(え、臨也くんいつの間に神様信じるようになったの?!)が漏れてくる。折原くん買い物の途中って言ってたけど良かったのかなと考えていると、どうやら妹たちにも連絡しているらしい。
じゃあ行こうか、と携帯を閉じた折原くんにコクンと頷く。暖かい缶コーヒーを二人とも買ってコンビニを出た。コンビニで暖まった体が寒さで震える。マフラーに顔を埋めて両手をコートのポケットの中に突っ込むと、缶コーヒーがぽかぽかとカイロのように中を暖めていた。隣を歩く折原くんはいつの間にか暖かそうな耳あてをつけていた。かわいいと誉めると怒られた。



「折原くんは何お願いするの?」



「え?苗字さんの合格祈願」



「それは嬉しいけど折原くんのお願いごとはいいの?」



「俺は別にいいの。…簡単に叶えて貰っても困るしね。」



何かを隠すように折原くんは笑った。冬休み潰して勉強してたんだからきっと合格できるよ。上手く話を変えられて、私はそれにありがとうと答えるしかなかった。
簡単に叶っては困るお願いって一体どんなんだろう。私なんか大学入試なしで合格させて貰えると言われたら喜んで飛び付いちゃうのに。折原くんのお願いはきっと複雑で歪んでいて混沌としているんだろう。だけどそれを願わないで私の合格祈願をしてくれるというなら、私は折原くんのお願いが叶いますようにと神様にお祈りしようと思う。簡単には叶えないで、いつか必ず叶えてあげてくださいと。



「折原くん。私、あと少し受験勉強頑張る。」



「…うん。」



紅白もガキ使もバーゲンも我慢できたからあと少し、あと少し頑張るよ。初詣が終わったらいつもの道に戻って、大嫌いな勉強との戦争を再開しよう。今度は逃げない。


20110104
title by hmr

◎四季をテーマに作って頂きました。
素敵なタイトルありがとうございました!
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