『…四木さん?』 「名前さんですか?明日のことなんですが……。」 明日は久しぶりに名前さんと会う約束をしていたのに、急な仕事が入ってしまった。かなり前から約束していただけに断りにくいが、どうしようもない。私の方に急な用事が入ることは度々あって、その都度物わかりのいい彼女は仕方ないねと言って眉尻を下げていた。そんな彼女の悲しそうな顔を見るのはいつも辛い。だからといって電話越しで伝えるのは表情が見えないから心配になる。電話越しの彼女は今、どんな顔をして私のドタキャン話を聞いているんだろうか。 「……だから、明日は会えそうにありません。本当に申し訳ない。」 『……仕事が終わるのは何時頃ですか?』 「……え?」 『ちょっとでも会えませんか?』 今までこんなこと言われたことがなかったから少しだけ驚いた。普段あまりわがままを言わない子だから、それだけ明日会えるのを楽しみにしていたんだと思う。もちろん私も楽しみにしてたし、できるものなら会いたい。 「……深夜でも大丈夫ですか?」 『私は大丈夫です!』 「なら、もしかしたら行けるかもしれません。」 『本当ですか?』 「私が仕事早く終わらせて、名前さんが寝てなければですが。」 「絶対寝ません!仕事頑張ってくださいね!」 じゃあまた明日とおやすみなさいを言って電話を切る。デスクに載った膨大な資料の数に眩暈がした。明日の会議までに、この書類をなんとか終わらせないと名前さんには会えそうにない。頑張らないといけないなと、肩を2、3回まわして作業に取り掛かり始めた。 *** 時刻は23時45分。思ったより会議が長引いてしまった。深夜でも大丈夫とは言っていたけど、名前さんのところに着くころにはきっともう明日になってしまっているだろう。確認のために一応メールを送ってみた。起きていると言っていたけど、寝ていたら電話で起こすのは可哀想だろう。 『起きてますか? そちらに着くころには明日になってしまいそうなのですが大丈夫ですか?』 送信して1分後、名前さんから返信が来た。 『起きてましたよ(>_<)遅くまでお疲れ様です。 疲れていると思うから無理しないで休んでください。 四木さんは多分こういうの嫌いだと思ったから言わなかったけど、今日で私たちが付き合い始めて1年経ちました。 1年ありがとうございます。これからもよろしくね。』 プルルルル・・・・プッ 『もしもし』 「…なんで言わなかったんですか?私は別に嫌いじゃありませんでしたけど。」 『……だって。』 「珍しくわがまま言ってくれたと思ったら…全く貴方は。普通そこは仕事なんか休んでとかじゃないんですか普通は。」 「ごめんなさい…。」 「……いえ、私が全部悪いんです。ことらこそ、1年ありがとうございます。…それと、愛してますよ。」 「…私も。」 「…私も、何ですか?」 「…わかってるくせに。意地悪ですね。」 「…なんのことやら。でも、続きは直接聞くことにしましょう。」 「…カレー温め直しておくから早く来てくださいね。」 そんな優しさはずるいよ 私がどのくらい貴方を好きか、貴方がどのくらい私を好きか、わかるまで今夜は離してあげませんよ。 10.16/10 title by 宙心 |