「臨也くんと名前ちゃんってさ、付き合ってるの?」


「ぶふっ。」



唐突にサイケが聞いてきたから、思わず飲んでいたコーヒーでむせてしまった。げほげほっ。大丈夫?とサイケが背中をさすってくれる。名前がいないときのサイケは少しだけ俺に優しい。少しだけ。



「その様子からだと、付き合ってないんだ?」


「げほ…。ハッ、馬鹿なこと言わないでくれるかなぁ。もちろん付き合ってるに決まっ」


「付き合ってないわよ。貴方もよくそんな見え透いた嘘つけるわね。」



書類整理をしていた波江が俺の言葉を遮る。本当余計なこと言わないでほしい。睨みつけてみたけれど、当の波江は素知らぬ顔で書類をファイリングしている。



「じゃあさじゃあさ!名前ちゃん俺がもらっていい?」


「駄目。名前は俺のだよ。」



ペシっと軽くサイケの頭を叩くと頬を膨らませて睨まれた。自分と同じ顔のやつに、睨まれても怖くはないけどとても複雑な気分だ。まぁ何を言われようが、名前は誰にも渡すつもりないけど。



「…だいたい、臨也くんらしくないじゃないか。臨也くんは欲しいものはすぐに自分のものにする性でしょ?」



その通り。俺は自分の欲望に忠実だ。今まで欲しいものは全て手に入れてきたし、やりたいことも全てやってきた。周りの人間達は全て俺の思い通り。だけど、名前だけはそういうわけにはいかなかった。
人間という種族を愛する俺に、初めて特別な感情を持たせた特別な人間。それが名前だった。名前に感じているこの感情は、ただの人間達を愛する感情とは別物で、簡単に好きだの愛しているだのと言えるものではなかった。人間に嫌われるのは慣れたもんだけど、名前に嫌われるのは怖いというのは可笑しな話だ。だから長い間、今のような関係が続いている。まったく、俺らしくもない。



「サイケにもいつかわかるんじゃないの。本当に好きな子には、なかなか好きって言えないことがね。」


「…ふーん。でもさ、」



サイケがカップに残っていたコーヒーを、俺のいた机に流す。コーヒーに染まったのは名前が忘れていった花柄のハンカチだった。白かったそれは、茶色に染まる。サイケは口端を不敵に吊り上げていた。



「グズグズしてたら、本気でもらっちゃうからね。」


「…コノヤロウ。」



遠くで波江から、苦くて深い溜息が漏れた。







(勝つのは俺だよね)
0813
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