授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると同時に周りが一斉にざわつき始める。
“授業疲れたー。” “部活行こうぜ!” “帰りにあの店寄っていい?”
そんなクラスメイトたちのお喋りを聞きながら帰る準備をしてる最中、自分を呼ぶ声が聞こえ顔を上げる。呼ばれた方向に振りむき、私は双眼を見開いた。
「へ、平和島くん…!」
なんと隣のクラスの平和島くんがいた。私を呼んでくれたクラスメイトは顔を強張らせていて、早く来い!と 言う心の叫びが聞こえてくる。慌てて扉の方に向かい、クラスメイトにありがとうと声をかけた。
「…悪い。急に来て。」
「っううん!どうしたの?」
「今から何か用あんのか?」
「? ううん。帰るだけだよ。」
「じゃあ、さ…」
一緒に帰らねぇか。平和島くんの言葉に体中の熱が上がった。まるで私の身体を巡る血液が一気に沸騰したみたい。急に恥ずかしくなって平和島くんの足元を見ながらいいよ、と返事をした。鞄取ってくるねと平和島くんに伝えて、再び自分の席に戻る。一瞬だけ振り返って見た平和島くんの顔は、少し赤く染まっていた。どうしよう。どうしよう。すごく緊張する。でもすごくすごく嬉しい。
「お、またせしましたっ!」
「ん。じゃあ帰るか。」
頭にぽんぽんと手を置かれて、私たちは並んで歩き始めた。心臓は爆発しそうなくらいドキドキしていて苦しいけど、嫌じゃなかった。 委員会が一緒だった平和島くんをいつの間にか好きになっていて、勇気を出して告白したのが昨日のこと。ずっとずっと好きで、いつも平和島くんのことを目で追っていた。振られると思っていたのに、付き合うことになったのは本当に夢のようで今でも信じられない。だけど今隣にいる平和島くんは本物で、時々歩いていて触れ合う腕とか、低めの声とか、他愛のない会話とか、私の心臓の音とかも全部夢なんかじゃなくて現実だった。
「…苗字って仲いい奴らからも苗字で呼ばれてるんだな。」
「うん!苗字の方が名前より呼びやすいからって。名前で呼ばれることって学校じゃあんまりないなぁー。」
少し寂しいよねと呟くと平和島くんは沈黙してしまった。あれえええ何で何で??!私なんか変なこと言っちゃった!?沈黙が気まずくて何か言葉を掛けようと必死に考えるけど、何一つ思い浮かんでこない。あわわどうしよう!!!
「名前、」
「はっ、はいっ!」
「って、呼んでいい、か?」
バッと平和島くんの顔を見上げると横顔は林檎みたいな赤色で、私は首がとれそうなくらい縦に振った。名前って呼んでいいか。名前って呼んでいいか。平和島くんの言葉が脳内でこだまする。それって彼氏だから名前で呼んでくれるってことだよね?平和島くんにとって私は少し特別な存在だと思っていいんだよね?あ、やばい。嬉しすぎて死んじゃいそうだ。
「ああああのっ、私もっ!」
「ん?」
「静雄くんって、呼んでいいです、かっ?」
「……おー。」
まるで割れ物を扱うかのように優しい手で頭を撫でられた。わわ、私も平和島くんのこと名前呼び。
名前で呼ぶと急に距離が近づいた気がしてくるから不思議だ。静雄くんがさっきよりも近くに感じる。私たちは磁石のS極とN極みたいに、近づければ離れなくなるような関係になるときが来るのだろうか。そんな未来は私にも平和島くんにも今は想像できないけど、そうなればいいと願うことならできる。離れなくなる関係になるには、まだまだ長い時間が必要かもしれないけれど、今はとにかく離れたくないから静雄くん。手繋いでも、いい?
赤い糸で小指を繋げば ハイオッケー
title by 宙深 0831/10
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