「そろそろ休憩しようか。」


「そうですね!お茶いれてきます。」


数時間ぶりに雲雀に話しかけられたことが嬉しすぎて、思わず声が大きくなってしまう。GWで本来休みだが、雲雀と名前は学校に来ていた。GW中も毎日学校に来てねと雲雀に言われた時はめんどくさいと感じたものの、雲雀に会えるのは嬉しかった。一応、雲雀と名前は恋人同士。今まで一度だって甘い雰囲気になったことはないけど、雲雀が自分を傍においてくれると言うことだけで、名前は満足していた。普通の恋人たちの様に、デートをしたり、手を繋いだり等をしたくないというわけではないのだけれど。


「雲雀さん、どうぞ。」


「ありがと。」


煎れたての紅茶と冷蔵庫からだしたケーキを雲雀の前に置く。甘い香りで応接室が満たされていく。雲雀の口にケーキが運ばれていくのを名前は見つめた。ケーキを食べているだけなのに、雲雀さんかっこいいな。そんなことを考えていると、雲雀とパチリと目が合った。



「そんなに見つめられると、さすがに恥ずかしいんだけど。」


「えっ!?あっす、すいません!!つい……。」


し、しまったー!!気付いたら雲雀さんに見惚れてしまっていた。食べてるとこなんてあんまり人に見られたくないよね…。そんな私を見て雲雀さんは苦笑いしていた。そんな表情もするんだ…!!



「まぁいいけどね。…ところでこのケーキどこの?」


「えっ?!お口に合いませんでしたか?!」


「ううん、美味しいよ。この辺りの店かい?」


「えーと……」



言いにくいのか名前は言葉を濁す。フルーツのたくさん入った、抹茶風味のロールケーキ。雲雀も名前も甘いものには目がなく、よくお茶請けのためにお菓子を買ってきてあるのだがこんなケーキを見たのは初めてだった。甘さも控えめで、雲雀好みの味だ。この辺りの店では見たことがないし、一体どこで買ってきたんだろう?


「言いにくいの?」


「そっそんなことないです!!」


「…」


「…そのケーキ、私が作ったんです。」


「名前が?」


「今日雲雀さんがお誕生日だって聞いてお祝いしたくて…。」



恥ずかしいのか、名前は持っていたお盆で顔を隠す。自分が勝手にお祝いしたくて、雲雀のために作ったケーキを食べてもらって、しかも美味しいとまで言ってもらえた。それだけでいいと思ってたのに。自分が作ったことなんて言うつもりなかったのに。影がかかって、雲雀が自分の目の前にきたのがわかる。



「ねぇ名前。顔見せて。」


「い、嫌です。」


「…仕方ないな。」



あっ、と気付いた時には、雲雀にお盆は奪われていた。今までにないくらい近くに雲雀の顔があって後退りしようとしたが、肩を捕まれて動くことができなかった。ち、近い。雲雀の整った顔がすぐ傍にある。きっと今の自分の顔は林檎のようなんだろうと思った。



「誕生日なんて君に言われるまで忘れてたよ。」


「やっぱりそうでしたか…。」


「ありがとう。すごく嬉しい。」



名前の額に雲雀が唇を落とす。ひゃあ、と小さく叫んで名前の顔はますます赤くなった。可愛い。雲雀は名前の頭をクシャクシャと撫でた。



「もう今日は仕事やめようか。」


「えっいいんですか?」


「誕生日くらい、恋人らしいことをしても罰は当たらないよ。」



どこか行きたいところはある?雲雀が名前に問うと、しばらくの間考えていたようだが、やがて首を振った。たまにはゆっくり休んでください。私は雲雀さんの傍にいれるだけでいいです。名前の優しさと愛しさで雲雀は胸が苦しくなった。腕がゆっくりと引かれ名前は雲雀の腕に包まれた。



「…欲のない子だね、君は。」


「す、すいません。」


「…僕も名前が傍にいてくれるだけでいい。」



ぎゅううと更に抱きしめる力を強くする雲雀の背中に、おそるおそる名前も腕を回した。
お誕生日おめでとうございます。
生まれてきてくれてありがとう。
甘い甘い言葉の響きにふたりは顔を見合わせて微笑んだ。




(ずっと傍にいさせて下さい)
(ずっと傍にいて下さい)







(title by hmr)
2010.05.05
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