プロローグ
ミラ、ミラ。わたしの大切なおねえちゃん。
見渡す限り真っ白な空間、何もない空間。どうしてわたしはこんな所にいるのだろうか。いくら考えてもわからない。そもそも"わたし"とは誰なのか。
『――、』
言葉を発しようと開いた口からは何も聞こえなかった。音すらも失われてしまったのか。
"わたし"は必死に探す。
何を?誰を?
――わからない。
(わからないけど、何か大切なもの)
その大切なものを探して無我夢中で真っ白い空間を走る。すると、わたしの目の前に淡い光が生まれ、人型のシルエットが浮かび上がった。
(だれ…?)
胸にひっかかるこの感覚から察するに、"わたし"にとって関係のある人物なのだろう。
次第にはっきりしていく目の前のシルエット。
(っ…ミラ!)
完全に姿を捉える事ができた瞬間、"わたし"はわたしになった。全てを思い出した。
"わたし"が必死に探していたのは、わたしにとって一番大切な存在。
足を踏み出した瞬間、突然ミラの身体が薄くなり始めた。
(消え…!?いや、いやだよ!)
もう大切な人を失いたくない。なぜそう思ったのかはわからないが、わたしは必死に、微笑みながら消えていくミラの元へと駆ける。
(ダメ、消えちゃう…)
一層透度を増した彼女の手に触れようとした瞬間、まばゆい光に包まれる。あまりの明るさに目を開けていられず、わたしはぎゅっと目をつぶった。
『っ!』
"わたしはまたうしなってしまうの?"
(いや…いや…!)
脳裏に浮かぶのは―――血。
赤い、紅い、鮮血。
地面に広がる血の海の中で誰かが倒れている。
その倒れている人物は次第に姿を変えていき、最終的に形を成したのは……ミラの姿だった。わたしは血まみれのミラに手を伸ばす。
『ミラ!!』
腕を掴んだ瞬間、光が弾けたような感覚に襲われた。目の前に広がっていたのは…見慣れた天井と、そこに届けとばかりに伸ばしていたわたしの手だった。