過剰な忠誠心
「っぐぬぬぬぬぬ…!」
自分の意見をいとも簡単に手折られたイバルはわなわなと震えている。
この優等生くんの爪の垢でも煎じて飲ませたら少しぐらい出来た人間になるかしら。
そんな事を考えていると、わたしの横に座っているミラが唐突に口を開く。
「四大を捕える程の黒匣だったというのか」
『…?』
その声はか細く、横にいるわたしですら耳をすまさないと聞こえない程だった。
「あの時…私はマクスウェルとしての力を失ったのだな」
「ミラ……」
案の定ミラの呟きが聞こえていなかったらしい黒髪の少年が不思議そうにミラの名を呼ぶと、ミラは驚いたように顔を上げた。そしておもむろに立ち上がり、わたし達に背を向ける。
「さあ!貴様たちは去れ!ここは神聖な場所だぞ!」
わたし達の前で腕を広げてイバルが言う。
「ミラ様のお世話をするのは、巫女であるこの俺だ!」
腰に手をあててふんぞり返るイバルだが、その過剰な忠誠心にミラが少し迷惑している事をわたしは知っている。
(本人は良かれと思ってやってるんだろうけど…)
正直、幼なじみの将来が心配だ。
「イバル、お前もだ。もう帰るがいい」
まるでシャキーンという効果音がつくかのようにカッコつけたイバルに対し、ミラがそう言った。
ミラがなぜそんな事を言ったのか理解できなかったらしいイバルが"は?"と言うと、ミラは再度口を開く。
「そうだな、有り体に言うぞ。うるさい」
そう言ってこちらを向いたミラの目は完全に冷め切っていた。ミラのあんな表情わたし見たことない。イバルってある意味すごいヤツね。
そんなある意味すごいイバルはミラの言葉に相当ショックを受けたのか、涙を流しながら崩れていった。
様子のおかしいミラと話がしたかったが、あまり長居できる雰囲気でもなかったので、肩を落としてとぼとぼと少年達と一緒に社を出ていくイバルに手を引かれわたしも社を後にした。