幼なじみの可愛い一面
「貴様らがしっかりしていないおかげでミラ様があんなことに!」
社を出るやいなやイバルは突然少年に食ってかかった。
「くそ!俺がついて行ってれば!」
「マジで短気なやつだなぁ」
『だいたいあんたがいた方がもっと大変な事になってるわよきっと』
「ははっ、違いねぇ」
わたしの言葉に長身の男が笑うと、イバルがキッと睨みつけてきた。
「俺はミラ様を決して傷つけさせはしない!」
『その気持ちが空回りしてミラに何回迷惑をかけたの?』
「ぐっ…」
『あんたはもうちょっと落ち着く事を覚えなさい。ね?』
そう言ってイバルの頭を優しくポンポンと撫でてやると、照れ臭そうにそっぽを向いた。
こんな風に可愛い所もあるのだけど…普段が普段なだけに、こういう一面がある事をすっかり忘れてしまう。
「……」
真っ赤になりながら離せと暴れるイバルが面白くて、尚も頭を撫でたり頬をつっついたりしていると、ふと視線を感じた。後ろを振り向くと長身の男がこちらをじっと見つめている。
『…?どうかした?』
「いんやー、別に?気にすんなって、綺麗なお嬢さん」
『…あっそ』
男はひらひらと手を振り何も無いと答える。余計な一言を付けて。いかにも軟派そうな男だ。
(よくわからない人だなぁ…)
飄々とした感じでどこか胡散臭い男に対してそんな事を思っていると、突然少年が歩き出す。そんな少年にイバルは、
「貴様!聞いてるのか!」
と少年の肩を思いっきり引っ張りこちらへ向かせた。
「あ、ごめん。何?」
冗談でも嫌味でも無く、純粋に聞いていなかった(と言うより聞こえていなかった)らしく、少年は突然のイバルの行動に少し驚きながらそう尋ねた。
(そういえば社を出てから何か考え事をしていたような気がする)
この少年、頭の回転が速かったり機転がきいたりするのは良いが、どうやら一つの事に集中してしまったら周りが見えなくなる性質のようだ。
「いいか。これからもミラ様のお世話は俺がする。余計な事はするなよ!」
そんな少年に苛立ちを覚えたのか、イバルは舌打ちをしてそう言った。
『ミラの世話をするのはあんたの役目だからとやかく言わないけど、落ち着きをもってミラに迷惑かけないようにしなさいよ』
「わ、わかっている!」
わたしが改めて注意をすると、イバルは不機嫌オーラを撒き散らしながら村へと帰って行った。