いつか来る、その日のために
「君は一体、何者なんだ」
明らかな敵意を隠す事なく私を壁へと押しやる。
ここは廊下だというのに、誰一人として通らない。元々、ほとんど人が来ない場所だ。だからこそ彼は敢えてこの場所に自分を連れてきたのだろう。
誰かに見られてしまえば何かと厄介だろうし。何せ彼は“仮面“を被り続けなければいけないのだから。
彼の手が壁についているせいでこの場から逃げる事は叶わない。
……と言っても、逃げるつもりなど毛頭ないのだが。
「…僕の問いに正直に答えろ」
鋭い眼光に射抜かれる。その瞳は深い赤に染まり、いつもの人の良さそうな笑顔を浮かべている彼からは想像もつかない程に一切の感情が無い表情。
そしてその形の良い唇から紡がれる言葉は、優等生らしい、"誰もが憧れる優しい彼"らしい言葉ではなく、有無を言わさぬ威圧感を放ち私の素性を問うている。
普通の人間なら言い知れぬ恐怖を感じるだろう。それ程までに目の前の"彼"は、いつも接している彼と違い過ぎていた。
しかし私は、そんな"彼"を知っている。
あろう事かそんな一面を含めた彼の全てに恋をしてしまっているのだ。
─いや、恋なんてとうに通り越している。
私はリドルを…愛しているのだ。
彼を助けたい。そう思ってまた"此処"へやってきた。もはや私が生きる理由はそれしかない。もう、何処にも戻る事はできない。
「私は──ただの生徒だよ」
上手く、笑えただろうか。
以前とは違う関係にひどく心が痛む。
「……そういう事にしておくよ。」
納得行かないという表情だったが、そう言ってリドルは壁から手を離しこの場から去って行った。思ったよりもあっさりと開放されてしまった事に少し驚く。
しかしこれから先、彼の中での私に対する疑念は更に大きくなるのだろう。
「今はまだ、このままで…」
小さく呟く。いつか…いつかまた、あの優しく心地好い…楽しい日々を過ごせたらそれで良い。
その為なら私は何だってしよう。
彼が闇に染まらないように…たとえ最悪の事態が起きたとしても、彼に光がさしたのなら私はどうなったっていい。
『リディア、君を愛してる』もう一度、その言葉を聞かせて。
いつか来る、その日のために(私は精一杯足掻いてみせる)お題:
nothing様
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