あまえんぼう



『ぎゃー!』

「…もう少し女らしい声は出せないのか」


今日は、わたしの通う星月学園の保健医でもあり、恋人でもある琥太郎と久々のデート。と言っても下手に出歩いてわたし達の関係がバレるといけないので、こっそりと星月学園寮内にあるわたしの部屋でのデートとなった。

どうせならまったり映画でも観ようという話になり映画を借りたのだけれど、怖がりなくせに怖いもの見たさでホラーなんか借りたわたしが馬鹿だった。しかもこの映画すごく怖い。


『だだだだだって!こ、こわ、こわわ』

「少し落ち着きなさい」


そう言って琥太郎はわたしの頭を優しく撫でてくれた。少し気が楽になり、落ち着いてきた気がする。


『……ごめん』


琥太郎は静かに映画や読者を楽しむタイプだ。ホラーに関してはよくわからないが、少なくともわたしみたいに騒がしいヤツと観るのはあまり好まないだろう。
琥太郎に迷惑をかけてしまったと思い謝ると、彼はきょとんとした顔でわたしに尋ねた。


「何がだ?」

『一人でぎゃーぎゃー騒いじゃって…』

「……………っく」

『なっ!』


長い沈黙の後、琥太郎は吹き出した。何がおかしいと言うのか。


『なんで笑うのよ!』

「っはは、ああ…すまん、あまりにもお前が可愛すぎてな」

『はあ…?』

(わたし謝っただけなんですけど…)


いきなり吹き出して何を言い出すのかと思ったら、可愛いだなんて。謝ると可愛いのか。琥太郎の考えがよくわからない。


「謝る事はない。明るくて元気な沙那を見ているとこっちまで笑顔になれる。俺はそんな沙那が好きだ」


そう言ってわたしの口唇に、触れるだけの軽いキスを落とす。


「……それに」

『それに?』

「怖がる沙那を見るのもなかなか面白いしな」

『な…!』


にっこりと、綺麗な笑顔を浮かべてはいるが、放った言葉は全く優しいものではない。
人が本気で怖がっている時にそんな事を思っていたのかこの人は。


『なによー!ばか!』

「ははっ」

『んもう、知らないっ』


座っていたソファーから立ち上がると、琥太郎に腕を引かれて彼の脚の間に座る形になった。そして後ろから抱き締められる。


「すまない…怒ったか?」

『っ…』


耳元で囁かれたせいで、わたしの身体はピクリと反応する。無視を決め込もうと思ったのに、その声で耳元で囁かれたら否が応でも反応してしまう。


『怒ってない…』

「そうか、それなら良かった」


そう言って琥太郎はわたしの肩に顔をうずめる。
綺麗な緑色をした彼の髪が肩や首筋を掠め、少しくすぐったい。


『くすぐったいよ、こた…』

「ん?ああ、すまないな」

『……ね、キスして?』


琥太郎にキスをねだると、彼はくすり、と笑い先ほどの軽いキスとはうって変わって、深いキスをしてくれた。


『ン、んう…っふ、」


ちゅ、とリップ音をたてて口唇が離れると、琥太郎はにっこりと微笑みながら、


「今日の沙那は甘えん坊だな」


と言った。琥太郎がそうさせる訳であって別にわたしが甘えたな訳ではないと言いたいのだが、甘えてしまってる辺り結局は同じ事なんだと理解した。


「まあ、そんな沙那も好きだけどな」


大好きな彼が大好きな笑顔でそう言ってくれるなら、甘えたな性格も悪くないな、なんて思ってしまった。



あまえんぼう
(わたしが甘えるのは貴方だけ)



→アトガキ


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