そんなあなたが好き
『っはあー!つっかれたー!!』
「うん…もうフラフラだよ…」
「ほほ、これは…少しばかりじじいにはつらいですね…」
今まで戦った事のない物凄く強い魔物に運悪く出会ってしまったわたし達。まさに死闘を繰り広げるという表現がぴったりな程にわたし達と魔物の戦いは長時間に及んだ。
結果、わたし達は勝利を納めたのだけれど……その代償は大きい。みんな戦う気力など残っていなかった。
「もう動けないよ〜」
「わたしもです…」
小さな体で必死にみんなを援護していたエリーゼ(とティポ)は、その場に倒れてしまった。
『エリーゼ!?』
いきなり倒れたエリーゼに驚き、わたしはエリーゼを抱き寄せる。するとジュードがこちらへやって来て、自らの耳をエリーゼの口へと寄せた。
「大丈夫…気を失ってるだけだよ。あんな魔物と戦ったんだ、無理もないよ」
心配するわたしを落ち着かせるように、優しく微笑むジュード。ああ…キミの笑顔は天使だよジュードくん。
「なんだぁ?おいリディア、なに優等生見てニヤニヤしてんだよ」
ジュードのエンジェルスマイルに瞳を輝かせているわたしを見て、アルヴィンが抱きついてくる。暑苦しいったらない。
「うっさいわね!ニヤニヤなんかしてないわよ!ジュードの笑顔に癒されてんの!邪魔すんなばかアル!」
抱きつくアルヴィンを引き剥がしながら言うと、マイエンジェルジュードくんが苦笑する。
「ふむ…いくら気を失っているだけとは言え、いつまでもこんな状態では危険だ。どこかで休む事にしよう」
再度抱きつこうとしてきたアルヴィンに重い一撃を喰らわせたわたしの横で、ミラはそう言った。
たしかに、いつまでもこうしている訳にはいかない。どこか環境の良い所でちゃんと休ませてあげないと今後の旅に響くかもしれない。
何よりわたし自身かなり疲れが溜まっている。気持ちの良いベッドで気持ちの良い眠りに就いて気持ちの良い朝を迎えたい。
「んじゃー、宿でも探すとすっかね」
わたしが喰らわせた一撃から復活したアルヴィンがそう言い、わたし達は今夜泊まる宿を探す為に歩き出す。
――――――
――――
――
運の良い事にすぐ近くにカラハ・シャールが見え、わたし達はカラハ・シャールで一夜を過ごす事にした。
何ヵ月振りかのカラハ・シャール。クレイン亡き今、領主となったドロッセルがどうしているかみんな気になるらしい。特にローエン。さっきからそわそわと落ち着きがない。
「久し振りだね。ドロッセル、元気にしてるかな?」
『会いに行ってみる?』
ジュードの言葉にわたしが続けてそう言うと、レイアが口を開く。
「うーん、会いたいのは山々だけど…もう遅いし、何より一番会いたいのはエリーゼだと思うんだ」
「そのエリーゼは夢ン中だ。ゆっくり寝かせてやるんだろ?」
レイアとアルヴィンの意見はもっともだ。ドロッセルには明日会いにいこう。そう決めて、わたし達は宿屋へと向かった。
みんな疲れていたのか、部屋につくなりすぐに眠りに就いてしまった。わたしも寝ようと布団に入ろうとした時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「よっ」
『アル…どしたの?』
ノックをしたのはアルヴィンだった。アルヴィンも戦いでかなり体力を消耗していたようなので、てっきり寝てしまったものだと思っていたので驚いた。
「いやー、風が気持ち良い夜だぜ?ちょっくら散歩しねぇ?」
『は?』
何を言い出すんだこの馬鹿は。あれほど疲れていると言ったのに。聞いていなかったのだろうか。
沸々と募り出す苛立ちに気付いているのかいないのか、アルヴィンはわたしの手を取り外へと出る。
『ちょ、まだなんも言ってないでしょー!』
「夜のデートも悪くねぇだろ?」
ズンズンと進んでいくアルヴィン。どうやら少し街から外れた場所らしい。人の声はおろか、動物の鳴き声や機械の駆動音すら聞こえない。
『あのねぇ…わたしは―』
疲れてるんだから早く寝たいの。そう言いたかったのだが、突然アルヴィンがこちらを向いて噛みつくようなキスをしてきたので、その言葉が口から放たれる事は無かった。
『んっ、ちょ…なに…ンンっ…!』
「ん、はっ」
『んはぁっ…!っは…ぁ』
荒々しいキスから解放されたわたしは、立つ事もままならず、アルヴィンに支えてもらって辛うじて立っていられる状態だった。
『っなによいきなり…!』
「……ワリ…」
こつん、と、わたしの額に自分の額をくっつけて弱々しく呟くアルヴィン。
な、なによ…調子狂うじゃない。
いつもと違うアルヴィンの様子に戸惑いながらも、彼の広い背中に手を回す。
「嫉妬、した」
『…………………は?』
聞こえるか聞こえないかの声量で放たれたのは嫉妬をしたという言葉。いや、待て。話が見えない。
「ここに来る前、ジュードの笑顔見て嬉しそうに笑ってたろ」
『あー…』
ジュードのエンジェルスマイルに癒されてたアレか。
たしかにアルヴィン執拗に絡んできたけど…あれって嫉妬からだったの?わかりにくい事この上ない。
ジュードくんエンジェルスマイル事件(今命名した)を思い出したわたしを見て、アルヴィンがわたしの頬を包んでもう一度キスをする。
今度は優しい、いつものキス。ちゅ、とリップ音を立てて口唇が離れる。
「…っは、情けねぇな」
『ほんと、アルらしくない。っていうか巻き込まれたわたしの身にもなってよね』
そう言って彼のおでこに軽くデコピンをお見舞いし、くすくすと笑う。そんなわたしを不思議そうに見るアルヴィン。
『わたしが好きなのはアルだけだよ。大好きだから安心して、ね?』
「ッ…おまえ、それ反則…」
身長の都合上、上目遣いでアルヴィンを見ながら囁いたのが彼にとって反則技だったらしい。まあ、わかっていてやったのだけれど。誰かさん程ではないけど、わたしって性格悪い。
『それにしても、あんな事で嫉妬しちゃうなんて…これから先が思いやられるわねー』
「今度俺に嫉妬させたらマジで襲うから」
『は!?なんでわたしが悪いみたいな事になるの!』
なぜわたしが襲われなければならないのか。スキンシップを取れば確実に襲われるという事じゃないか。
「ま、リディアから愛の言葉が聞けたから当分は大丈夫だな」
『なにそれー!定期的に言わなきゃいけないってこと!?』
「俺が訊かなくても言ってくれンだろ?リディアちゃん」
そう言って彼は笑う。
『んもう…ほんっと調子良いんだから…。でも、』
そんなあなたが好き(本日二回目の愛いただきました)
(うっさい!もう当分言わないからね!)
(俺が言わせてやるから安心しろって)
(何に安心!?)あとがき→
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