キス療法



『きゃっほーい!』


しばらく野営続きだったわたし達(主にわたし)は、久々の宿屋での宿泊に気分は最高潮だった。


「おいおいリディア、そんな風に飛び込んではベッドが壊れてしまうぞ」


見ただけで爆睡している自分が想像できる程気持ちの良さそうなベッド。そんなベッドに勢い良く飛び込むわたしを見てミラが言った。


『失礼しちゃうわね!わたしが重いみたいな言い方!』

「ああいや…そういうつもりではなかったのだが…」


わたしが眉を寄せるとミラは慌て出した。そんなミラにわたしは笑顔を向ける。


『んふふ、わかってるよ!』

「ミラがそんな事言う訳ないもんねー!」

「そうです。ミラは優しいんです」


レイアとエリーゼがそう言いながらミラに抱きつくと、"いきなり抱きつくと倒れてしまうぞ"と彼女は困ったように笑う。
ミラが優しいのはみんな知ってるよ。みんなそんなミラが大好きなんだ。


わたしがそんな事を思っていると、ミラから離れたレイアが宿屋の中を探検しようと言い出した。
探検する程広くもない気はするけれど、久々の宿屋にハイテンションだったわたしは二つ返事で探検に参加する事にした。



――――――――
―――――
―――




『(あれ?アル…?)』


長旅と野営続きに知らず知らず疲労がたまってしまっていたらしいエリーゼが今にも寝そうになっていたので部屋に戻ろうとしていた時、少し前にアルが歩いているのが見えた。

……なんだか様子がおかしい。
そう思ったわたしはレイア達に先に部屋に戻ってもらう事にした。


『ごめんみんな…先に戻っててもらえる?』

「ああ、それは構わないが…いきなりどうした?」

『え!あー、いや…んー…』


アルヴィンに会いにいくんですー!なんてハッキリ言っちゃうのもどうかと思って返答に困るわたし。
ましてわたしとアルの関係はみんな知らない…ハズ、だから。

自分から"カップルなんですウフフ"だなんて脳内お花畑みたいな発言できないし。いやでもこの際暴露しちゃうべき?そしたらいつでもイチャイチャ…いやいや何言ってるのわたし!


顔を赤くさせながらあたふたしているわたしを見てレイアが何か勘づいたのか、ニヤニヤしながら口を開く。


「ふーん、そっかそっか……んふふー。さぁミラ!部屋に戻ろー!」

「あ、ああ…」


エリーゼの手を引いたミラはレイアに背中を押されて部屋へと戻っていった。
……相手が誰かまではわかっていないかもしれないけど、レイアにはバレてしまった気がする。まあ恋愛に関しては人一倍勘の良いレイアの事だ。相手がアルだってこともきっと気付いている。だが彼女のおかげでなんとか恥ずかしい思いをせずに済んだので感謝だ。


去っていくレイアの背中にありがとうと呟いて、わたしはアルの元へと急いだ。







『アル!』

「ああ、リディアか…そんな顔してどうしたんだよ?」

『どうしたって…!』


あんたがふらついてたから心配で…なんて言ったらきっといつもみたいに良いようにかわされる。わたしに心配させないように。そしたらまた一人で何とかしようとするでしょう?そんなのダメだよ。

アルに変な気を遣われる前にわたしは彼の手を引いて新たにひとつ部屋を借りた。


「おい、いきなりなんだよ…そんなに俺と離れんのが嫌だったのか?」


部屋に入ると、アルはくつくつと笑いながらわたしの腰に手をまわし、くいっと顎をもちあげる。


『っ…何言ってんの!ほら!ベッドに寝る!熱はかる!早く!』


間近に見えるアルの妖艶な笑みに一気に顔に熱が集まるが、今はそんな事をしている場合ではないので迫るアルをベッドへと突き飛ばす。


「っと…!ったく、乱暴な姫様だな。熱なんて」

『あ る ん で しょ』

「ぐ…」

『はい、お熱はかりましょうねー』

「こんな状況じゃなかったら楽しめんのにな…」


プレイとして、だなんていう不穏なセリフは聞かなかった事にしてアルに熱を計らせる。


しばらくするとピピッという音が鳴り、体温計を見てみるとそこに記されていた数字は38.2。
えっ、38.2度?高くない!?


『なにこれ!なんで黙ってたの!』

「いや、別にどうもなかったし大丈夫だと思ってよ…」

『んもう!ウソつき!フラフラしてたじゃない!』


あまりの熱の高さにびっくりしたのと、アルが何も言わなかった腹立たしさに涙が溢れてきた。うわあわたしカッコ悪い。


「リディア…」

『っ…みんなに、言えなくても…!せめてわたしにぐらい、言いなさいよ…っ』


アルの性格からしてみんなに言えないのはわかる。でもわたしにぐらい言ってほしい。わたし達支え合うんでしょ?あんたがそう言ったんだからね。

わたしの瞳から流れる涙はなかなか止まってくれず、どんどん溢れてくる。


「リディア、泣くな…」


しゃくりあげるわたしをベッドに座らせ、抱き締めながらそう囁くアル。


『アルが泣かせてんでしょ…!』

「ははっ、それもそうだな」

『ばか…』

「リディアがキスしてくれたら治るかもなー」


わたしの頬を撫ぜながらそう言うアル。何言ってんのこの年中盛り魔。


「病気の恋人の願いきいてくんねーの?」

『そんな事言われたら断れないじゃない、ばか…』

「ばか、ってリディアの口ぐせな」


わたしの口唇に指をあてて微笑むアル。そんな彼がかっこよくて、やっぱりわたしはアルが大好きで。


『うっさい、変態ばかアル…』


そう悪態をついて、微笑む彼にキスを送った。




キス療法
(ん、ちょ…だめだって…熱あるんでしょ!)
(大丈夫だって)
(っあ…!んもう!病人はおとなしくしてなさい!)
(いてっ!わかったよ…)



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