「名前〜、わたしもう限界ネ。先に寝るアル」


その言葉に頷いた。もう時刻は夜の11時を回っている。でも、まだ銀時が帰って来ていない。あたしは押し入れに入って行く神楽を見ながら、小さく溜息した。





移転したのに付き合ってくれてありがとう!!
感謝を込めて酔っ払いネタいってみようか!!
歌声の場合





さらに一時間が経過した頃、ガラガラと音をたてて万事屋の戸が引かれた。見れば真っ赤な顔した銀時がフラフラした足取りで入ってくる。急いで彼のもとまで行くと、


「あれー?名前ちゃんまだ起きててくれたのー?」


そう言ってこちらに手を伸ばした。その手を握ろうとしたのだけど、


「うおっと」


なにせ頼りない足取りだ、銀時はブーツを脱ぐのに手間取ったらしく、あろうことかこちらに倒れ掛かってきたのだ。


…!!


当然悲鳴なんてあげることが出来るわけもなく、倒れ掛かってきた銀時の体重をもろに受け止めて床に押し倒される。腰を打ちつけて痛みに顔を歪めた。


「いって…」

銀時もどこか打ちつけたらしく、そんな苦悶の声を発するもそのまま動く気配がない。どうしたのかと顔を覗きこめば、すでに彼は眠る体制に入っているらしく、瞳は穏やかに閉じられていた。


…マジでか


体勢的にいろいろまずい気がする。だって、完全に押し倒されてる…。けれども心はいたって冷静だ。だって、銀時酔っ払ってたもの。別にそういう展開だったわけではないし、そういう関係になりそうになったことだってない。単なる事故。
しかしいかんせん、自分の体も思うように動かせない。眠った男の人ってけっこうな重さだ…少し苦しい…けど上で眠る彼はいたって穏やか。起こすのも可哀そう…そう思ったので、大人しくすることにした。まぁ、いっか…誰に見られるでもないし、別に嫌なわけでもない。そう思ったら今まで堪えていた眠気に襲われる。そのまま重たい瞼を降ろしていけば、少し寝苦しくとも穏やかな眠りに包まれた。





―――――**





微かな頭痛に顔を歪ませながら朝の眩しい光に目をうっすら開けた。


「…」


どうやら朝らしい。昨日俺どうしたっけか…?頭の中で記憶を辿りながら、なんだか温かく柔らかい感触に視線を泳がせる。


…!!!!!!!


そして俺は叫び声をあげることも出来ずに凍りつく。何コレ何コレ何コレ!!?俺の下に…名前ちゃんが見えるけど幻覚??幻覚だよねコレ!!間違っても名前ちゃんじゃないよねコレ!!俺押し倒してないよね間違いおかしてないよね男として最低なことしちゃってないよね!!!!!冷や汗がダッラダラ吹きだし始めた頃、


「オイ腐れ天パ名前に何してるアルカー!!!!!」


頭に響く甲高い神楽の声と共に強烈な蹴りを入れられて体が吹っ飛んだ。


「どわっ!!」


いろんなとこをいろんなとこで強打して咳き込む。夜兎の力マジパねぇ。


「おい名前!!大丈夫アルカ!!?ごめんよわたしが先に寝てしまったばっかりに!!」


おそるおそる見やれば、涙を流しながら名前を抱き起こす神楽と、そんな神楽をまだ眠そうな瞳でぼーっと見つめる名前ちゃんの姿が目に入る。
急いで彼女の身なりを見れば、寝起きで多少よれてはいるものの、はだけた様子はない。そのことに少し安堵するも、まだ心臓がドキドキバクバク。何であんな体制になっていたのか全く思い出せない。ちくしょー飲むんじゃなかった。


「あ、あのっさ…」


怖々話しかけてみる。


「黙れ天パ!!!!ここから出て行くヨロシ!!!」


すかさず神楽のパンチを避け、かわしたついでに名前ちゃんの方へ。駆けよれば彼女はこちらを見た。嫌がる様子や怖がる様子はない。おそらく本当に何も無かっただろうと信じながらもあえて、


「あの、…俺さ、昨日何かした?」


そう問いかけると、まだ覚醒しきらないのかぼーっとした瞳の彼女はフルフルと首を横に振った。


「ほんと?」


今度は縦に振る。そうして俺の心臓はようやく落ち着きを取り戻した。


「名前ほんとアルカ?こいつ何もしなかったアルカ?」


うんうんと二回頷く彼女。良かった…本当に良かった。大事な一線越えなくて良かった。いやぁ心臓に悪い目覚めだわホント。ホッと胸をなでおろし、そして深く溜息した。

その後どうしてこういう事になっていたのか事情を聞いた俺たち。やっぱり神楽に殴られた。俺は土下座して謝った。でも、名前ちゃんは全く気にしていない様子で、土下座した俺を引っ張って立ち上がらせる。


“そんなことしないで”


俺は少し頭を掻いた。いやらしいことは何も無かったみたいだけど、名前ちゃんも名前ちゃんである。他意は無かったにしろ、異性に押し倒されたのだから少しは抵抗するべきだろう。ましてやそのまま眠りにつくだなんて。


「名前ちゃん、これからは抵抗しなさい。多少蹴ったり殴ったりしないと、いつかほんとに銀さん襲うよ」


冗談交じりで言えば、また神楽に殴られた。その様子をおかしそうに見ていた名前ちゃんはスラスラとノートに文字を綴って寄こす。


“銀さんに限ってそんなことは無いって信じてます”


嬉しいような…でも落ち込む自分。複雑極まりない文面にとりあえず、


「…ま、一応礼を言っとくわ」


苦笑しながらノートを返した。その時ガラガラと万事屋の戸が開き、


「あれ、皆さんおはようございます。今日は早いですね、どうしたんですか?」


新八が入ってくる。案の定神楽がいろいろすっ飛ばした説明をし、


「銀ちゃんが名前を押し倒してたのヨ」


新八にも殴られた。





╋僕だって男なんです╋

まぁ、襲う気なんて全くないのだけどね





20100131白椿