どうしよう…


ニコリ、と妖艶な笑みと共に、
神威団長が酔っ払って帰ってきた。





移転したのに付き合ってくれてありがとう!!
感謝を込めて酔っ払いネタいってみようか!!
ルルルの場合





神威団長がお酒を飲んでるとこなんて見たことない。それはあたしが未成年で、飲み会には参加しないからだという理由もあるけれど、神威団長も、あたしと一緒にいるときにはお酒を飲まないようにしていたようだ。理由は分からないけど、とにかくあたしといる時はジュースとかお茶しか飲んでなかった。
だから、


「んへへー」


こんな団長は見たことない。神威団長お酒弱いのかな…?でも前に阿伏兎さんが、団長は飲めるから付き合うのがキツいって言ってた気がする。ってことはすっごく大量に飲んだのか…?


「う…っ…え?」


深夜いきなりあたしの部屋に訪れた団長は可愛い微笑みをたたえ、ずいずいあたしの方へと歩み寄る。それに少しの恐怖を覚えたあたしはどんどん後ずさっていくのだが、当然限界がきてベッドに足を取られた。ボフンと柔らかいベッドに尻もちをついて、それでも迫ってくる団長にベッドの上で後ずさり。お酒の匂いが鼻をかすめる。なんでこんなことになっているのか頭をフル回転させても、明確な答えは見いだせないまま。神威団長は相変わらずニコニコしながらこっちに寄ってくるのだった。


「神威団長…酔って、ますよね?」

「んー?」

「…っ」


頭が壁にこつん。もう後ずされないこの状況で、神威団長はニコーっと嬉しそうに笑った。


「追い詰めちゃった」

「お、追い詰められ、ました…」


自分の声が思ったより情けなく響いて泣きたくなる。間近で見るとけっこう酔っ払っているご様子で、ほのかに赤い頬とトロンとした瞳。これは…ヤバいかも。


「も、もう寝た方がいいんじゃないでしょうっか…」

「そーお?」


ぶんぶんと勢いよく首を縦に振った。神威団長はちょっと首を傾げてケタケタ笑う。


「良い子は寝る時間です…っ」

「うんそうだネ、でも、俺良い子じゃないし」


そう言ってさらに接近する。もう吐息がかかるほどに神威団長の顔が迫ってきて思わず目を閉じた。た、たたたたたた確かに神威団長良い子じゃないけど良い人であるとあたしは信じていますぅうううう!!まさか酒に飲まれて女を襲うような真似はしないって信じてますからぁああああ!!心の中であらんかぎり叫びまくる。しかしそれが声になることはない。


「もーぉ、名前は可愛いなぁ」


恐る恐る目を開けたらさっきまでと変わらない神威団長のどアップ。思わず赤面しそうになるけれど、


「名前ー、二人でゲェムしよっか」

「げ、げーむ…」


不安が背筋を這い上がる。足を自分の方に引き寄せて、できる限り丸くなる。自分を守るように丸くなる。でもそんなこと、きっと神威団長には通用しない。神威団長はあたしが逃げられないように壁に手をつく。さぁ、いよいよ本当に追い詰められたぞ。どうする…!!


「俺の目を見て」

「…え」

「目」


言われるままに見上げたら、綺麗な深いブルー瞳。形の良いそれが、今うっすら細められこちらに視線を寄こす。
ひぃいいいいい!!い、イケメンさん!!分かっていたことだけど稀に見るイケメンに赤面もいいとこだ。こんなの間近で見るもんじゃねぇ!!
シュバっと勢いよく目を逸らして俯いたら顎を掴まれて上を向かせられた。


「ひぃっ!!」

「ゲームだよ」

「…っ??」

「今から先に目を逸らした方が負け」

「へ?へ??」

「負けた方が勝った方の言うことなんでも聞くこと、はいスタート」


こっちの言い分何も聞かずにスタートしてしまった理不尽なゲームに心が準備不足だと悲鳴をあげる。こんなん神威団長が勝つに決まっている…が、そう簡単に負けを受け入れることも出来なくて、とりあえず出来る限り気持ちを落ち着かせて青い澄んだ瞳を見ることにした。


「…」

「…」


…気持ちを落ち着かせるなんて無理だった。ドキドキドキドキ煩い心臓。少し気を緩めればすぐにでも逸れたがる瞳。ダメだダメだ、常に極限状態だ!!顔が熱い…!
沈黙の中見つめ合う。1秒が30秒、30秒は1時間くらいの長さに感じるこの異様な空間はなに?青く澄んだ瞳はとても綺麗だけど、それよりも神威団長がこっちを見てるってことが気になって気になって、


「ふふ、」


と突然神威団長は優しく微笑む。こっちは顔の熱さから自分の顔が真っ赤であることを推測して恥ずかしさでいっぱいだ。微笑む余裕などない。


「名前可愛いネ」

「…!!」


おまけにそんなこと間近で言われてみ。もう爆発します。


「大好きだよ」

「ぅ…」


し、視界がかすんできた。あたしの瞳が別のとこ見たいと訴えてくる。逸らしたい!!恥ずかしい…!!もう限界…!!





―――――**





真っ赤な顔の名前の瞳はみるみるうちに潤っていった。それが何だか面白くて可愛くて、ついつい意地悪に拍車がかかる。


「愛してるよ」


言えば名前はピクリと反応して、瞳はさらに潤っていく。


「あ、…あんま、言わないで下さい…っ」

「何を?」


少しずつ酔いから醒めつつあった俺は、すでに理性というものは取り戻していた。なんで名前の部屋に来たのか、どうしてこんなゲームを仕掛けたのかよく分からないけど、まぁ楽しいからよしとする。酔った勢いだきっと。


可愛いね

大好きだよ

愛してる

食べちゃいたい…


思いつく限り口を動かせば、名前はさらに頬を染める。シラフでそんなこと言うのはさすがに俺でも抵抗あるからね。本命の子だったら尚更。だから酔ってる設定の今がチャンスなわけで、がしかし、名前は本当に限界な様子。よく頑張って耐えているなぁと感心したとき、ついに瞳に収まりきらなくなった滴が一粒流れ落ちた。キラリと光るそれを思わず目で追ってしまい、


「「あ、」」


名前と俺の声が重なる。


「だ、団長…逸らした」

「…」

「…」

「…」

「あ、…あたしの、勝ち?」

「…」


キョトンとした名前の顔を、同じくキョトンと見据えた。

…まさかの敗北だった


「…どうやら名前の勝ちだネ」

「や、やった…!!」


さっきの恥じらう顔はどこへやら。顔いっぱいに咲いた笑顔に苦笑する。こっちの顔もいいなぁなんて。


「しょうがない…約束だもんネ」

「え」

「ほら、負けた方が勝った方の言うこと聞くっていうの」

「あ、」

「忘れてたの?まぁいいや、で、俺何すればいい?」


聴いたら沈黙する彼女。うーんと考え込んでいる。しかし、あ、っと閃いた顔をするといそいそと立ち上がって何かを運んできた。見たらそれはゲーム機。


「実はあたし、最近眠れなくて、」

「…?」

「なんか宇宙って体内時計が狂うみたいなんです。それでいつも変な時間に寝ちゃって、夜眠れないんです」

「そうだったの?もっと早くに言いなよ」

「…こんなこと言われても迷惑かなって…」

「名前は変なとこで気使いすぎ、これからはちゃんと言いなさい」

「はい、すみません」

「んで?」

「あ、そう、だからこれから、あたしが眠くなるまで一緒にゲーム付き合ってくれませんか?」

「なんだそんなことか、そんなの命令されなくたって付き合うのに」

「へへへ、ありがとうございます」

「何するの?」

「マリカー」


しかしこれが間違いだったのだ。ゲームにハマった二人は毎晩徹夜する勢いでゲームに励んだらしい。本末転倒だ。そのおかげで昼間の時間帯はもっぱら昼寝。阿伏兎は溜息しながら二人を叱りに行くのだった。





でも楽しいからさ

すっとこどっこい!!





20100131白椿