「ねえ。調子は大丈夫?」
「ははは、大丈夫に決まってるじゃないですか。」

真暗な空に、眩しいほど輝くのは・・・
太陽なんかじゃない。
月。
それは太陽を敵とする夜兎にとっては気を許せる相手かもしれない。だけど、私にとっては太陽はおろか月さえも敵視しなくてはならない。
理由は一つ。私の目はとてつもなく弱い。
昔の戦いで目を負傷した際、光に弱くなり月さえも眩しく感じるようになった。
だから、太陽なんてもってのほか。ケガをしてからは完全な夜型の生活をおくっている。

「あーあ、まだ敵は来ないの?俺の予定ではもう戦い終わってるんだけど。」
「随分とお急ぎのようで・・・まあ、神威団長ですから早く終わりますよ。私もいますし」
「私もいますし、ね・・・。」
どうやら神威団長は敵が来るのが遅くて御機嫌斜めのよう。
まったく、早く現れて欲しいものだ。上司の機嫌は傾くし、私自身も早く戦いたいと思っている。私は戦うのが好きだ。とても執着していて、失えないと感じる。

真夜中の、冷たい風が頬を撫でる。いつもは眩しい月も雲が隠してくれている。
条件は最高、テンションも上がってる。

「団長・・・来ましたよ。」
「じゃあ、行こうか。」
「邪魔しないでくださいね!」
「あはは、そっちこそ」

どかーんっ!!

敵達の目が開き、白目の面積が広くなる。
突然の出来事に彼らは少し動揺していて、動きが鈍い。さっさと片付けるには、今のうち。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
心が満たされる。赤く染まり、口角が上がる。
なびいた髪が絡まる。
「おーい、俺もう終わっちゃったんだけどー。」
「はいはい、残りは後2人ですから、あと1秒っ!!」
・・・と叫んだが、そうもいかなかった。
敵の仲間が遅れながらも来てしまった。すぐさま戦闘体勢を立て直すけど、どうやら私が光が苦手だという事が敵に漏れていたらしく、敵の1人が私にライトを向けた。
私は眩しくてうずくまる。こんなことになるなんて予想していなかったので、対処法なんて全く考えていない。
嗚呼、意識がおかしくなってくる。
もう、戦場からは引退かな・・・?

「大丈夫?邪魔するなとか自分が言ったくせに何邪魔になってんの?」
「私・・・もう引退ですかね・・・?」
ははっと私が笑って言うと、神威団長はいつもの笑顔を消し、「何言ってるの?そんな事俺がさせないよ。どんなに嫌がっても」と言った。
悔しいけど、私は戦いからも神威団長からも離れられないと思う。神威団長が、神が創った陽の光より、人が作った雨にも負けない光よりも輝いていることをきっとみんな知らない。きっと、周りのみんなは神威団長を影や闇に例える。だけど私は、月に例える。闇の世界で輝く神威団長は私が恐れる月のよう。私には、眩しすぎる。きっと、手放さないと、近い将来自分が苦しむことになるだろうけど、神威団長は私にとって戦う事と同等だから、私はこれからもここに立ち続ける。




月から逃げろ





Thanks.華音さま