戦場は血と腐臭で満たされて終焉を迎える。ごくわずかな生き残りたちは、絶望と虚しさと涙を得た。そして、敗北を認めたわたしは、なんだか虚しい気持ちで空を仰いだのである。遠くに小さな雲を一つ浮かべただけの真っ青な空。それを見上げれば、敗北に泣きわめく心を少しごまかせる。勝つ者があれば負ける者も当然いるのだと言い聞かせる。負けたけれど、これでもう戦場に立たずに済むではないかと。人生ポジティブが大事だと無理に笑って見せた。だけど、人生ってやっぱり上手くいかないものらしい。わたしはその事実に目を見開いて立ちつくすしか出来なかった。

辰馬が宇宙に出ると言った

晋助が江戸を潰すと言った

小太郎が攘夷でJOYすると言った

せっかく、皆で平和に暮らせる時代が来たと思ったのだ。国は天人に敗北したけれど、わたしたちは戦場で勝ち抜いて生き残った。それだけでいいと言い聞かせていたわたしには理解できないことだった。負けたことは少なからず悔しいけれど、もう戦場に出なくていい。これからは皆で楽しいことだけ考えて過ごせばいいって思っていたのに、皆ここを離れると言うのである。


「そ、そっか…みんな、もう新しい目標、見つけたんだ…」


束の間の休息さえ与えてはくれない。
戦場に立つ前に掲げた目標、国のために、仲間のために、そんな目標たちはわたしたちの手をすり抜けて血の戦に呑み込まれていった。結局達成できなかった目標というものを、再び掲げる気にはどうしてもなれない。わたしはそこまで強い人間ではなかったのだ。掲げるにはせめてもう少し時間が欲しい。
わたしは、今まで戦場で頑張った分、皆と楽しく過ごすことを望んでいたのに、皆はそれを望まない。それが悲しくて、でも言葉に出来なくて、溢れそうになったのは涙だけだった。一人、新たな出発を望めなかった。


「みんな、よくあそこまで熱くなれるよなぁ」


そんな中のんびりした声に振り向くと、綺麗な銀髪の彼がどこか眠たそうに彼らを見ている。銀時は欠伸を一つして、わたしを見た。


「お前もなんかすんの?」


そう聞かれて目をぱちくり。あまりにも皆と温度の違うその声に少し唖然とした。でもすぐに悲しい気持ちが逆流してきて首を振った。


「ううん、…わたしは、…悩み中…かな」

「ふーん」

いたってどうでも良さそうな返事をして、欠伸をまたしている。


「銀時はなんかするの?」

「ああ?俺はなんもしねぇよ」

「何も?」

「そ、俺はこれからも今まで通りやってく」


わたしは首を傾げた。今まで通りって言ったって、戦場はもう無いし、国は敗北してしまって、守るものもほとんど失った。今まで通りなんて無理な話じゃないか。そう思ってみても、なんだかその答えが心地よかったので反論はやめた。そっか、と短く返して空を見上げる。戦場にいたときと変わらない青い空。きっとこの空は変わらずこれからも青いのだろう。


「ねぇ、銀時」

「ああ?」

「わたしたちさ、頑張った…よね?」

「…」


横を見れば少し眉をしかめて鼻をほじる姿があって笑えた。銀時はうーんと唸ってから口を開く。


「まぁ、お前は頑張ってたんじゃね?」

「はは、銀時もだよ」

「…」

「…ありがと」


わたしも今まで通り生きていけるだろうか。天人たちがはびこっていくであろう国で今まで通り生きていけるかな。そう考えて、大きく押し寄せてくる不安を深呼吸で誤魔化した。きっと時代に流されていくだろう。少しずつ今の感情も薄れていく。失ったものたちの痛みはいずれは消え、この寂しさも忘れていくのだろう。でもこの気持ち、少しでも長く持ち続けられたらなぁと…

わたしは、今も昔も守るものは変わっていないと言い切った貴方をすごく尊敬しています。





重力に逆らって

「銀時、久しぶり」

「おお、…お前変わらねぇなぁ」

「はは、銀時もだよ」


昔と変わらない笑顔がそこにある




By白椿乃々