「流れ星に願い事すると何でも叶うんだってよ」


夕食の時間、食堂に設置されているテレビを見ながら担々麺をつついていると阿伏兎さんがそんな事を言い出した。


「え、何?何でも叶うの?」


突然目の前のお皿が喋った。…じゃなくて、向かい側に座っている団長が喋った。顔が見えないけれど山のように積まれたお皿からアンテナみたいな髪が顔を覗かせてぴょこぴょこと揺れている。


「いや、地球ではそれが信じられてるって話だと」

「ふーん」

何やら楽しそうな様子の団長がごちそうさま、と手を合わせて席を立った。何だろう、流れ星とやらを見に行くのかな?



「ほら、行くよ」

「…え?」


担々麺をひとくち口に入れようとした瞬間、団長が私の服を掴んでいた。

「な、えっ何ですか担々麺食べたい…?!」


そのまま団長にずるずると床に引きずられてしまう。助けを求めようと阿伏兎さん、阿伏兎さん…と呼んでもひらひら手を振り返してくるだけ。あのオッサン!寝てる間にバリカンあててやる!!





「団長…!どこまで行くんですか!」


廊下まで引きずられて、談話室に着いた所でやっと放された。背中の汚れ具合がなんとなく想像できて溜め息が出る。


「よし、流れ星探すよ」

「はい?」


ソファに座る団長が、じっと食い入るように窓の外を見つめている。その視線を辿れば、無数に散らばる星たち。



「もしかして、阿伏兎さんの言ってた事信じてるんですか…?」

「さあね」


ニコニコして団長が言う。信じてるのだとしたら団長の願い事って何だ?海賊王になる…とか?


「海賊王になるなら団長も麦わら帽子を被るんですか?」

「…何言ってんの?」


わけ分かんない事言ってないでさっさと探してよ、と額を小突かれた。小突かれたというかど突かれたと言っても良いだろう。団長は力加減を知らないらしい。


「っ〜…」

額をさすりながらも、窓に手をついてなんとか流れ星を探し出そうと試みる。
真横で団長が真剣に星を見ているから驚きだ。一体どんな願い事を…!きっと団長の力を持ってしても叶いそうもない夢なんだろうか。そうだな…例えば、叶わない恋とか?いやいや団長なら叶うだろうに。よっぽどの事が無い限り…ほらアレ、もし相手が男だったりしたらアレ…男?あれ、もしかして団長…阿伏兎さんの事が好きなんじゃ?あのオッサンめ…やっぱバリカンじゃ済まんぞ!私ちょっと団長の事す、す…きなの…に…?


「あああ!!団長、流れ星!」

「どこ?無いよ?」

「今ピカッて!ピカりましたよ!」

「えー?無いよ嘘つき」

「いだだだだ!!本当ですって!」


団長が私の頬をきゅっとつねる。いや、きゅっなんてもんじゃない。先程も言ったように団長は多分、力加減を知らないのである。


「だ、大丈夫ですよ!私が代わりに団長のお願い事をお願いしてあげますから!」

「ふーん、何を?」

「…阿伏兎さんと団長がむ、結ばれますように?」






沈黙が走る。






「なるほど、殺されたいわけだね」

「あれ、やっぱ違いましたか?」

「……」



団長が急に黙ったと思ったら、さらさらした髪が頬に少しかかるくらいに顔を近づけてきた。


「…だ、んちょ」

「分かんないの?」


青い瞳から逃げるようにちらりと視線を外すと一瞬、再びキラリと星が流れるのが見えた。


「団長!また流れ星が…っ、」


くちびるにほんのり熱が走って。



「もういいや、星に頼るのはやめた」



背中に伝わる床の固い感触と、目の前にはケラケラと笑う顔があって。




…団長の願い事、なんとなく分かったような気がします。





夜空が嬉し泣き





Thanks.美優さま