星が綺麗だよ。

その言葉に誘われて、私は大好きな彼−−−新八と散歩に出た。

他愛もない話をしながら近くの公園へ移動する。

公園のベンチに腰掛けて空を見上げればたくさんの星が輝いていて、冒頭の新八の台詞に納得した。

−−刹那、風が吹いた。

冬というだけあって、ただでさえ冷たい空気がそれのせいで更に冷たくなり、私は思わず寒さに身を縮こまらせる。

あまりの寒さに唇を噛み締め、じっと耐える。

冷たい空気を肺に取り込みたくなくて、私は呼吸すらも止めてしまった。

だけど哀しいかな。人間は酸素なしでは生きられない生き物。

私はすぐに耐えきれなくなり−−−、


「ぶはっ!」


−−−噴き出した。


「!? どうしたの!?」

「や、ごめ、息止めてた……。」


言えば新八は怪訝そうに眉を顰める。

しかし数瞬後、ああ、と頷いた。


「寒い? ごめんね、気付かなくて。はい、これ着て。」


ふわりと肩に何かが乗せられた。

その『何か』は新八が今の今まで着ていた上着。

私は咄嗟に突き返した。


「い、いいよ! 新八が風邪ひいちゃう!」

「大丈夫だよ。それに、誘ったのは僕だし。」

「いいったらいいの!」


強く言っても、新八は食い下がる。

かと言って私も引き下がりたくはない。

どうすればよいのか。このままではいつまで経っても平行線だ。


「妥協案とか、ないの?」


新八に問い掛ける。


「妥協案って言われても……。」

「……ですよね。…そうだ、じゃあこうしましょう。」


たった今思いついた案。

言え。言うんだ私。例え羞恥があったとしても。

私はゆっくりと両手を広げた。


「新八が私を抱き締めれば、私も新八も暖かくなって一石二鳥。どう?」


………自分で言ってて恥ずかしい。

私は今どんな顔をしているのだろうか。

新八はというと、目を丸くしたまま動かない。

え…あの…そこまでノーリアクションだと流石に悲しいんですけど……。

そう思った時だった。


「え、ちょ、何言ってんのォォ!?」

「遅い! 反応遅い! 嫌ならいいよ、私もうそこまで寒くないから。ただそうしたら二人とも暖かいのにって思っただけ。」

「嫌じゃないけど……いいの?」

「いいから提案したんでしょ。嫌ならこんなこと言わないわよ。」


さあ来いと言わんばかりに私は再び腕を広げる。

それでも彼の腕は伸びてこない。

……奥手なのは知ってるけど…今二人きりなんだからもう少し積極的になったって………。

私は一つ息を吐いてふい、と顔を背けた。


「いいわよ、もう。新八じゃなくて他の誰か……銀さんとかに暖めてもらうか、らっ!?」


言い終わる前に腕を引っ張られ、顔に衝撃。

そしてそれと同時に感じる温もり。

新八に抱き締められたのだ。

私は目だけで新八を見上げる。


「新八……?」

「……………。」


返事はない。

拗ねているのか、それとも妬いているのか。

どちらにしろ、可愛い。

私は笑って、新八を抱き締め返した。


「嘘に決まってるでしょ。私は新八以外に抱き締められたくないもの。」

「……騙したの?」

「少し拗ねてみただけじゃない。許される範囲だと思ったんだけど。」


言えば、新八はまた黙り込む。

私はふふ、と笑って新八にすり寄った。

新八の匂い。温もり。全てが私を落ち着かせる。


「……ねぇ、暖かい?」

「うん。」

「ね? この案、よかったでしょ?」

「そうだね。」


その言葉と同時に、新八の腕の力が少しだけ強くなる。

私、愛されてるなぁ、なんて自惚れてみる。

普段決してこういうことはしない彼が、少し冗談を言うだけで誰もいないとはいえ抱き締めてくるだなんて。


「ねぇ新八ー。まだ寒い。」

「え? まだ?」

「うん。唇だけ冷たいの。………温めて?」


上目遣いに見上げて首を傾げる私は確信犯。

それでもこのくらいの計算は許してほしい。

好きな人とキスしたいって思うのは当たり前じゃない?

新八は顔を赤くして迷っている。

もしこれが新八じゃなく銀さんとかだったら、言ったらすぐにしてくれるんだろうけど、この初々しさが新八のいいところだと思う。

新八は戸惑ったように呻いた後、ゆっくりと私にキスをした。

私はそれを受け入れる。

唇が触れ合う瞬間、私の視界の端をきらりと何かが通っていったような気がした。










まばたきの間に流れ星
(…ねぇ。今、流れ星流れなかった?)
(流れたね。)
(願い事すればよかったー。)




Thanks.霜月朱音さま