#3
ノートに走り書く大きな正三角形。
その中にクラスの奴らを順々に埋めていく。
がり勉グループは平均よりは下。混合組は前まではかなり良い位置だった。けど、今は正田達にかなりつきはなされている。平均組はもちろん真ん中で、その下がヒエラルキー上位からは透明扱いされる地味グループ。
卒業後に同窓会へ出向けば、上位からは決して名前では呼ばれない。こちらから喋りかけたとしても気もそぞろに返事されれば良い方。上位の奴らは悪気なく言うんだ。「お前、誰だっけ?」って。隣の席になって宿題を写させてやったことがあったって、同じ班で実習をやったことがあったって、悪気なく言う。「ごめん、全然覚えてない。」って。
もしその相手が自分にとっては意味ある存在だったとしたら?
でもそんなことさえ、奴らは気付きやしない。
きっと気付くわけ無いんだ。
「おい、ブタ原。」
頭上から落ちてきた声。目の前にできた大きな影。
その正体を俺は嫌ってくらい知っている。
「なーに書いてんの?」
今まで手の中にあったノートがさっとその影に取り上げられ、俺の体は寒くてたまらないみたいにカタカタ震えだす。
なのに汗が額から背中から噴きでて俺の肌をじっとりと湿らせる。
今日は何もないまま終わると思ったのに。
女の話で奴らもちきりだったから、俺に構う事がないと思ったのに。
ノートの中身を見られたらきっとまずいことになる。
取り返そうと慌てて立ちあがるもすぐさま足を引っ掛けられた。
よろけたところを容赦なく追撃の手が伸びる。肩をぐっと押され、机や椅子に脛や背中をぶつけ俺の身体がまるでラグビーボールのようにあちこちにふら付く。
その様は、よほど滑稽だったんだろう。
周りから波状に笑いが広がった。
あまりの痛みに喉からはギュウギュウ変な音が漏れた。
それでも何とか体勢を立て直そうと机に手を伸ばすが寸前で突き飛ばされ、オイルのような匂いのする床に顔から叩きつけられた。ザリリと頬に砂利がへばりつく。今の衝撃で、ただでさえひどい形になっている眼鏡のフレームがさらに形を変えてしまっただろう。
笑い声はますます大きくなる。夜に鳴く烏のように不気味な笑い声。
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