#15



靴箱に好き放題貼りつけられたシールを爪で削りながら。「荒木」が鼻歌を歌うようにこう言った。
「俺の傍にいたい?」
「・・・・うん。」
俺の目の前がまたじわり滲んだ。

「なにもかも俺の言う通りにする?できる?」
俺はちからいっぱい頷いた。
「マジで言ってんの?何でも言う事聞けって言ってんだぜ?」
マジで言ってる。だってチャンスはきっとコレきりだ。


「じゃあ、とりあえず泣くな。」
「ひ、ひぐっ」
慌てて目を見開く。ぐっと後ろにひいたせいで二重になった俺のあごを「荒木」が掴んで更に「命令」する。

「そんで痩せろ。あとその汚い眼鏡どうにかしろ。」
頷く。息を呑み、胸を抑えながら頷いた。
「あと、俺を朝起こしに来い。毎朝だぞ、そんでおまえんちのカレー食いたい。お前のつくるゼリー食いたい、お前と桃鉄やりたい・・・あと・・・そうだなあ」
次々に飛び出す「命令」を言うたびに「荒木」の語尾が跳ねる。小6の時に行った水族館にまた行きたい。バイクの免許を一緒に取りに行きたい。犬を飼ってるからお前に見せたい。・・・・・。
それはもはや「命令」じゃなく、「したいこと、してほしいこと」を次々と羅列してるだけだった。

その証拠に、裾から覗く指先がスリスリと控えめに擦りあわされていた。
楽しそうなその顔を見て、俺の胸がぎゅうぎゅうぅっと締め付けられる。
苦しい、でも嬉しくて。たまらなくて。

顔を上げる。言わなきゃいけない。
「ぜんぶ、ぜんぶ言う通りにするよ。何でもする。」

「・・・ぜんぶ、『しー』の言う通りにするから・・・だから・・・」
たまらず一歩踏み出した。しーの近くに行きたかった。もっともっと近くに。これが、今起きてることが信じられなくて、確証が欲しかった。



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