#14
目を開けると薄ぼんやり白い天井が見えた。
「・・・あれ・・・」
俺、いつの間に寝てたんだろう。
手探りで枕元を探し、なんとか眼鏡をかける。
「・・・。」
でも、まだ俺は夢の中にいるらしい。
「・・・。」
だって。しーが俺の漫画を読んでる。
一枚ページをめくるたびに肩を揺らして笑ってる。
「・・・し・・・あ、荒木君・・?」
「あ、起きたか。」
ポスッと原稿の束を突き返された。落とさないようにしっかりと受け取る。その間も「荒木」は鼻歌でも歌いそうなくらい楽しそうだった。
「あ、あの、俺、どうして。なんで・・・」
「御鷹はビョーイン。お前が突進したせいで脳震盪起こしたんだって。だっせーの。」
ようやく自分がどこで寝ていたのかを把握する。保健室だ。消毒薬の強い匂い。
固く糊が利いたシーツから抜け出すと、「荒木」は俺に鞄を投げ渡し歩き出す。俺はもつれもたつく足をなんとか動かして後を追った。
「お前、それの続きは?」
「それ」・・と俺が抱えてる原稿を指さす。
「あ、い、家。」
「ふーん、じゃあお前の家行くわ。」
やっぱり夢だ。だって、そんなこと言うわけ無い。
しーがまた俺を見て笑ってくれるはずない。
誰もいない廊下。コンパスの差は測らなくても歴然としていて、置いていかれたくない俺は必死だった。
御鷹に殴られたあちこちが痛くてたまらない。でも足をとめる方が嫌だった。
「お前、漫画家になりたいってまだ思ってる?」
荒木は振り向かない。
「・・・・」
「お前、才能ないよ。」
「知ってる。だって、」
勇気を振り絞り、ずっと伝えたかったことを言う。。
「だって、あの漫画はずっと、しーの為だけにかいてた。」
だけど、「荒木」はふぅんと言ったきり何も言わなかった。
また、二人の足音だけが響く。
ようやく昇降口にたどりつき、靴箱の前で二人向かい合い、
「荒木」が俺を見下ろす。あの日よりもずっと開いた身長。
でも、へーゼル色のその目は相変わらずキラキラと輝いていた。
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