#11

その夜、俺はPCの画面だけが照らす暗い部屋の中で一心不乱にキーボードを叩いていた。
学校の裏サイトにしーの秘密を、俺としーしか知らない秘密を全てぶちまけた。

しーの母親のこと、しーの父親のこと。しーの体中の傷は誰がつけたのか。
大げさな表現をたくさん使った。みんなが興味を引くように嘘も織り交ぜた。

困ればいい。俺がこんなに傷ついたんだって思い知ればいい。そう思った。俺は被害者だと、俺をないがしろにしたしーが悪いのだとそれを糾弾する作業に酔いしれていた。




朝目が覚めてそれを後悔する前に、なにもかもが手遅れになっていた。
裏サイトの俺の書き込みはサーバーエラーになっていた。

そしていつも見てる朝のニュース。いつもと同じ。でも違った。

野球選手とつい最近入籍した女子アナが俺のよく知ってる名前を読み上げる。

しーの父親だ。

『元プロレスラー我が子を虐待。未明逮捕。モデルとして活躍中のRINOはすでに別居中。』そのテロップに俺の頭の中がグワングワン左右にぶれた。
「あら、これもしかしてしー君のお父さんなの?やっぱり虐待してたのね、ひどい傷だものね。可哀想なしーくん。でもひどくないうちで良かったじゃない。」
母さんがいつもと変わらない調子でそう言った。
違う。よくない。だって。
しーは、本当に父親のことを尊敬していたんだ。大事に思っていた。大好きだったんだ。

父親がパトカーに乗り込むそのそばに、しーがいた。顔は映っていない。でもあの黒いスニーカーはしーが最近買ってもらったと喜んでいたスニーカーに違いなかった。

「しー君、どうするのかしら?やっぱり転校かしらね。ゆうちゃん、そうなったら寂しいわねえ。あんなに仲良しだったんだもの。」
そうだ。あんなに仲が良かったしーに俺はとんでもないことをした。
俺の足は震えていた。
でもどこかで思った。しーが一人きりになったら、きっと俺しか頼る人間がいなくなる。これでずっと一緒にいられる。
って。




しーは周囲の予想に反して、一週間後にはいつも通り登校してきた。もちろん学校中大騒ぎだ。けどその騒ぎの中心にいるしーは黙ったままだった。
逮捕前の父親にひどく殴れたんだろうか。目の周りは青や黄色に腫れあがっていた。腕にはギブスをしていた。

「しー・・・」
俺は謝ろうとしーに駆け寄った。なんてバカだろう。
俺は許してもらえると思ってたんだ。だってしーはいつだって俺に優しかったから。だって俺達はずっと一緒だったから。また一緒にいられるって思ってた。

でも、しーは、俺を睨みつけ言った。

「お前しか知らなかった。俺は、お前にしか言ってない。」

気付けば俺はしーに殴られ床に倒れ込んでいた。まさか、しーが俺にそんなことするわけがない。そう思って、視線を巡らせた。

しーは、俺をもう見てなかった。目の前のクズを見てた。

「しー・・・」



「気安く呼ぶなよ。豚野郎。」




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