#10


そうして小学校の六年間をずっと二人ですごした。
毎日漫画を描いて、しーに見せる。俺が新しいページをたまに出し渋れば、決まって両手をすり合わせながら、「頼むから見せてよ」って痺れを切らしたしーが言うんだ。たった一人の読者。でも俺には十分だった。
これからもずっと一緒だと思ってた。



でも、冷たく固い境界線が、じわじわと知らないうちにできてた。
俺としーの間にいつの間にかできていたんだ。
ボーダーライン。そんなのが俺達の間に横たわってたんだ。


しーは中学に入ってぐんと背が伸びた。プロレスラーの父親とモデルの母親との間にできた子供は、1年生の後半ですでに170半ばを超えて、学年はおろか、校内で一番背が高くなっていた。それに加え傷があってもなお整った容姿は周囲の注目を浴びた。一方の俺は、身長は160半ばにも届かない時点で止まり、ゲームのしすぎで眼鏡をせざるを得なくなり、偏食のせいか中学に上がるまでは平均だった体重はどんどん増えていった。典型的なオタクのできあがりだ。
それでも俺達はいつも一緒にいた。一緒にいるのが当たり前だと思っていた。
そう思ってたのはきっとおめでたいバカの俺だけだったんだろう。


いじけた俺の世界はどんどん小さくなって、人懐っこいしーの世界はどんどん広くなっていって。
一緒にいる方が不自然になっていった。どんどんどんどん二人の形が合わなくなっていった。隣でいることが「ぴったり」じゃなくなってた。
でも、俺は離れなかった。離れたくなかった。だってしーのことが大好きだったから。



なのに。
「しー、どういうことだよ!漫画クラブ辞めるって!俺そんなの聞いてないぞ!」
「うん、だって今日決めたから。俺、漫画クラブ入ってても漫画描けるわけないだろ?祐亮が描いたのを見るだけだし。」
首が痛くなるくらい見上げないと視線が合わなくなったのはいつから?
「しー俺の漫画好きって言ってくれたじゃんか!」
自分とずいぶん開いてしまったその身長を憎らしく思い始めたのはいつからだ?
「うん。大好きだよ。だからこれからも出来上がったら見せてほしい。」
「じゃあ、漫画クラブのままでも・・・」
俺はどうしても嫌だった。訳が分からなかった。だって漫画がしーと俺の絆を作ってくれたのに。どうして。

「俺、体動かすの好きなんだ。だから運動部に入りたいって思ってる。」
しーが笑う。いつもの笑顔じゃない。困った顔で笑ってる。
「何部に入るんだよ・・・」
「まだ決めてないけど、これから色んなとこ仮入部してみてから決めるつもりなんだ。」

それでも納得がいかない俺の後ろからしーを呼ぶ声がした。バスケ部の奴らだ。いつも俺をバカにしたように見てくる最低の奴ら。
「ごめんな。呼ばれてるから行ってくる。漫画の続き楽しみにしてるから!」
しーが俺を通り過ぎて、最低な奴らの輪の中に入っていく。
「なんで、あんな奴らと・・・」

そしてこう思った。
しーも、俺をバカにしてるんだ。そうに違いない。
しーがそいつらと肩を組み合いながら笑ってる。
きっと、俺を笑ってる。

心がビリビリに破ける音がした。


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