#1 会長視点

貴城は、いわゆる「外部生」だった。
エスカレータで進級する生徒が大半である中、サッカーの強豪校であったこの高校にサッカーをするためだけに入学してきた変わり者。
けれど、元々が人懐っこく、こちらが驚く程に豪胆なくせ、時折こちらが心配になるほどに繊細な思考を持っていた貴城は、その万華鏡のように日々移り変わる内面の魅力に加え、スポーツマンらしい引き締まった体、整っている癖どこか愛きょうのある容姿ですぐに周りの人間を夢中にさせた。
ここでは男同士の恋愛が当然のごとくまかり通っていたけれど、俺はその異常さに嫌悪感を持っていたし、少なくともそれを自覚するまでは異性愛者だったはずだ。けれど一度自覚してしまうともう駄目だった。

思い起こせば、貴城の第一印象はあまり良くなかった。教科書を忘れたと言ってこちらの返事も待たずに勝手に机をくっつけてきて、こちらのパーソナルスペースなんてまるでお構いなしに肩を密着させてきた。

それを不快に思った俺が距離を取ろうと椅子を引けば一層近づいてきてにっと笑う。悪戯で頭がいっぱいの悪ガキみたいな顔。
今まで俺の周りにいた人間は俺に媚びることで頭がいっぱいの奴らばっかりだった。でも貴城はちがった。当然のように俺の毎日に入り込んで俺を好き勝手に振り回した。行きたい所があるんだと早朝から釣りに駆り出されたり、勝手に部屋に上がり込んでこの世のものとは思えない料理を「食え」と迫ってきたり。
親しい友人もなく、勉強ばかりの俺のつまらない日々は貴城でいっぱいの日々になった。毎日貴城にメールして、貴城の後ろをそれこそ刷り込みされたひな鳥のようについていった。俺はすっかり逆上せ上っていた。貴城も俺のことが好きでたまらないのだ。と。

そもそも、周りから好意しか寄せられたことがない俺は自分が貴城にとって「その他大勢」にカテゴライズされてるなんて思ってもみなかった。
貴城に見つめられるだけで胸が苦しくなる。
それを何とか抑え込みながら「クラス、離れちゃったな。」と勇気を出して(でも何気ない風を装って)言ってみた。
そしたら貴城はきっと俺への好意を口にしてくれると思ったんだ。俺からはとても言えるはずがないから、貴城から言ってくれたらって。きっと同じ思いを言ってくれるって。


けど、貴城は「あーそうだな!でもお前のクラス太田も新谷もいるじゃん。いいなぁ。俺一年の時のメンツ全然いないわ。ま、お互いがんばろうな!」と俺の肩を力任せに叩いた後、新しいクラスの輪の中に入っていった。そうされてなお、俺はこちらに好意がある癖に照れくさくて言うことができないんだな、なんて思ってた。



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