#4

俺が「悪い、かばってくれたんだな。」とその目を覗き込めば、耳がぴょこんと立つ。俺が「ありがとう。」と言えば、仲島の尻のあたりからパタパタパタと何かがはたかれてる音がした。

あ、尻尾。くるりと内巻きになったもしょもしょの大きなしっぽ。
やっぱ柴犬だ、こいつ。

「お前に礼を言われる筋合いはない。それにお前は書類を破棄していたんだろう。どけ。」強く押しのけられ、俺が立ち上がればいつもの通りの罵詈雑言。バカ、くず、能なし。エトセトラエトセトラ。

けれど俺が「お前のせいだろ、誰だって今みたいに頭ごなしに怒鳴りつけられたら放り出したくもなる。」と言えば、耳はこれ以上ないくらいにぺっちょり。
「・・・・俺のせいで、お前は・・・こんなことをしたって言うのか?」
「そうだっつってんだろ。」
とどめとばかりに
「顔も見たくなかったんだ。」と言い捨てたら、しっぽもへにゃり。
けれど顔は無表情なまま。

「・・・・」
いや、まさか、そんなバカな。そう思いつつ、頭の中を整理する。一年の時の仲島はほんとに俺になついていた。言葉通りなついていた。俺のすることを真似し、俺の好きな音楽を買いあさり。 一方の俺はサッカー馬鹿で友達とつるむより何をするよりも部活だった。一旦集中すれば周りが見えなくなる。仲島からのメールを無視したことも一回二回じゃすまないし、とうとうそれが途絶えても「まあ、クラス離れたしな。」くらいの認識だった。 けど、思い出せば思い出すほど、一年時の仲島は俺の前では終始笑顔だった。
ふいに。
そうまるで奇麗な空気が肺の中にすっと入ってきたみたいに あの笑顔を思い出す。強面と言うべきその顔。でも俺の前ではいつだって笑顔だった。鮮やかなくらいの喜色で溢れていた。

そうして、一つの答えが俺に投げ込まれる。



「お前、まさか拗ねてんのか?俺が遊んでやんなかったから?」


仲島の耳がビビっと逆立った。
思いついたまま口に出すのは悪い癖よって今でも姉さんには注意される。でも相変わらずの俺の癖で。かつ、最終的に上手くいってきた俺の長所。

仲島は眉ひとつ動かさず「んなわけねえだろ。お前こそホモかよ。」 と言った。けれど尻尾は揺れている。パタパタパタ。

「俺が、二年になって構ってやんなかったからなんだろ?」
「は?意味わかんねえし。」
パタパタパタパタ。
「俺は、お前に冷たくされてすごく寂しいのに。」
パタパタ。パタパタ。
「お前は違うの?さびしくない?」
「・・・・」
パタパタ。パタパタ。パタパタ。パタパタ。

「なあ、仲島、もう俺のこと嫌いになっちゃったのか?」
「・・・・」。
パタパタ。パタ・・・ぺしょん。

ああ、そっか、俺が毎日毎日こいつに冷たくされて凹んでたのは、行きつけば恥ずかしいことに。
「・・・・俺は、お前のこと好きなのに。」



瞬間、仲島が鳴いた気がした「クキュウウン」って。



悔しいことに俺より幾分か逞しい気がする仲島がその長い腕を俺の背中にまわし痛いほどしがみついてくる。そのケツからのびてる巻きしっぽはもうこれ以上ないくらいに、バタバタバタバタと荒ぶっていて。

「なあ、俺のこと嫌いなのかよ。」
「・・・・」
ぎゅうぎゅうしがみついたまま、仲島がふぅと息を吐いた。
くっついてる体から伝わる激しいまでの心音。
「・・・・」
ドックドックドクドクドク。

甘い言葉を期待した。かちりとその目が俺を見る。
また沈黙。
パタパタパタパタ。

ようやく口を開いた仲島はいつも通り、俺様何様会長様の鉄面皮。
「・・・お前なんか・・・大嫌いだ。」
ツンドラ気候も真っ青の低い冷たい声でそう言った。

でも、俺はもう分かっている。

バッタバタバタ。バタタタタ。バタバタバタ。バッタバタバタ。バタタタタ。バタバタバタ。


目は口ほどにモノを言い、尻尾は目ほどにモノを言う。


俺の実体験からのことわざがコレ。


【END】

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