#5

雲ひとつない快晴。いつもと変わらない朝が始まるはずだった。

「転校生ってどういうことですか?書類も何も、一切生徒会の方には回ってきていませんが。」
「いや・・・それが・・・」
「大層な理由があるなら、こちらにも分かるように説明してください。」

見るからに高そうな椅子に深々と腰掛けた中年の男、この学校のTOPの理事長に臆することなくチカが詰め寄る。
元々、どんな些細なことでも計画を立てて行動する方で、勉強も生徒会の仕事も神経質なほどにプログラムを組むことで今までなんとか「卒なく」こなしてきた。(この場合卒なくこなしてるように見せてきたという方が正しい)
だからこそチカは「イレギュラー」という言葉が大嫌いだった。


「最低でも一か月前にはこちらにも書類を回していただくのが通例だと前会長からもお伺いしています。」
「いや・・・そうなんだけどねえ。」
なんともはっきりしない理事長に苛立つチカと違い、いつもと変わらぬ態度の忠道が資料を手に首をかしげた。
転校生に対して通常なら学校生活の規律等を紹介したビデオや、寮生活においての役割分担、学年で取り決められている委員への根回し、その他にも事前準備を山ほどこなさなければならない。
それは理事長も知っているはずだ。
「イレギュラーって言っても、生徒会(こちら)に一報くらいできたんじゃないですかねえ?行事しきってんの実質僕らですし〜?」
ソウゴの責めるような視線に理事長のはげ頭が脂でてかりだす。ステレオタイプの「おっさん」。生徒たちに陰で「ラード親父」なんて呼ばれていることを彼はきっと知らないんだろう。
みるみる汗染みで変色していくハンカチをみて後ろに控えていた補佐達が「うええ」と鳥肌の立った腕をさする。

「いや、私達もそう申し上げたんだけどね。あちら側が今すぐにでもと、どうしても譲ってくださらないから・・・」
「かといってこちらが譲歩するなんて筋が通らないでしょう。特例を通すにしてもそれ相応の判断材料を生徒会にも寄こすべきだ。この学校は教師や理事会じゃなく、生徒会中心での運営を「自主自立」の活動として掲げているんですよ。」
「君の言う事はもっともなんだけどねえ、もう決まったことだし・・・」
「・・・待ってください。」
「もう決まったことをぐちゃぐちゃ言うな」と、このやりとりを終わらせようとした理事長の態度に、先ほどまで丁寧な言葉で喋っていたチカが舌打ちまでつけて理事長を睨みつける。
「決まったって・・・・盛藍は、伝統のある、そして大侍が多く在籍している日本でも有数の名門校でしょう。そいつだけ我を通したら、他も通さないけんことなることくらいわからんのですか?」
けれども理事長は滝のように流れる額の汗を拭き、にやにやと愛想笑いを浮かべるばかりだ。

「そうは言ってもねえ・・・相手が相手だから・・・」
相手ってどんな家の奴だ?
三人が同じ疑問を口にしようとしたその時。


耳をふさぎたくさるほどの音が響く。

シャンシャンシャンシャン
シャンシャンシャンシャン

「下に〜〜〜下に〜〜〜」

その声に、校庭に面した窓に三人は慌てて駆け寄る。
門の方から夥しいほどの侍が行列を作っている。そして華美にかざりたてられた牛車がゆっくりと運びこまれてきた。


「なんだ、あれ」
「お祭りにしては季節はずれじゃの。」

「わあぁ!予定より2時間も早いじゃないか!君たち大変だよ!早く校庭に出て出迎えの準備をするんだ!!」
「出迎え?」

「上様の嫡男が、若様がお越しになったんだよ!!!」


興奮を露にした理事長のその声に、ソウゴとチカは顔を見合わせた。

「「若様って・・・徳川将軍、徳川康永の?!」」
示し合わせたようにその声はハモって、それにコクコクと頷きながら理事長が椅子にかけていたスーツをはおる。

「さあさあ、早く君たちも準備して!!
「準備ったって・・・若様って?意味わからん・・・」
「イレギュラー」の中の「イレギュラー」。生来のキャパの狭さを生真面目さと抜かりない下準備で上手くやってきたチカは目を丸くさせ、長い脚をもたつかせる。

そんなチカとは逆に常に適当風任せがモットーのソウゴはにやにやと相変わらずしまりのない顔で笑った。
「なあんかおもろそうじゃん」
一学年生用のカリキュラムやら寮生活の心得のしおりやらを入れた茶封筒を、チカの胸にぐっと押しつけ、ついでとばかりにその背を蹴る。
「ってえなあ、なんすんじゃ。」
「ぼけっとしてっからだろ〜」
仲は悪くても、幼稚舎のころからの腐れ縁。なんだかんだでお互いが剣と鞘のように上手くバランスをとってきた。
イレギュラーは大嫌いだし、今後こんなことは絶対ごめんだけど、今処理しなければならないのなら仕方ない。よりによって目の前の幼馴染に諌められるなんて絶対にごめんだった。
自分の手の中にある書類を抱え直しチカは理事長の後を追った。



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