#4

ストレートだと公言しているチカでさえ、那珂川家嫡男であるが故、その体裁のために小姓を一人この学校に入学させていた。

勿論、ソウゴがそうしているような爛れた肉体関係などあるわけが無い。
幼いころから兄弟同然に育てられ、そして一番の友人として共に成長した男は、「小姓」と呼ぶより「親友」の方がしっくりくる。
チカを守るために一日中傍に控えているわけでもないし(むしろ探さないとなかなか見つけられないし)、命令なんてしたこともないし例えしたとしても鼻で笑われるか問答無用で殴られるのがオチだろう。
形式として仕方なく彼を小姓として召抱えたものの、やはり小姓という制度はいらないというのがチカの考えだ。

なんだけれど。そうだったはずなんだけれど。

もし、忠道が自分を小姓に指名してくれたなら。
いつもいつでも傍にいれるし、あの太刀捌きを見逃すことなく見ることができるし、何よりも・・・・

「うん?チカ。俺の顔なんかついてる?」
「いや、ついとらん。いつも通り・・・」
「いつも通り何?」
「お、オトコマエじゃぁ・・。」

「ははっ!お前がソレ言うかよ?・・・でもまあ、悪い気はしねえな。もっと褒めろ。」
褒めたお返しなのかぽかんと空いた口に手ずから放り込まれるパインあめ。そして向けられる笑顔。やばい。顔、耳、ゆ、茹る。あちぃ。

「ああ!チカだけずるい!俺もちょうだい!」
「じゃあ、この生徒会長様を褒め称えろ。」
「やぁ〜褒めるとこありすぎて迷っちゃうってぇ」
耳障りなソウゴの声さえかすむその笑顔。

「なあ!た、忠道君は「小姓」いらねえんか?」
言うも、目を合わすことができず、自分の手を意味もなくすり合わせる。
「何、もじもじしてんだよ、きめえんだよ、がり勉。」そう言いつつ、ソウゴも忠道の方に身体ごと視線をやって重ねて問いかける。
「なんで、忠道君は、小姓指名しないの?」

「あー?二人して急に何だよ。」
「いや・・その小姓いる方が色々楽じゃろーし・・・」
「そうそう、便利便利。」
「便利・・・たって・・・俺んちイッパンカテイだからなあ。」
「で!でもさ、この学校に入れたんだから小姓とるのって別におかしくないじゃろーし」
チカは自身でその矛盾を自覚していた。ソウゴに玩具のような扱いを受ける小姓に対しての嫌悪。自分がそうなるなんて死んでもごめんだ。

でも・・
だって、会長様だ。
強く、清く。
誰からも尊敬されるべき素晴らしい武士だ。

「でも・・・」
うーんと唸る忠道は明らかに乗り気ではない。


入学して一年半以上経った今も、忠道は小姓を指名したことがない。ストレートなのか、それとも好みがいないのか。しかしいないならいないでチャンスはある。
「やっぱいらないなあ。」
「やけど・・!」

「・・・だってさ、俺にはチカも・・・」
もうひと押しと身を乗り出したチカの真黒な目と忠道のダークブラウンの目がかち合う。
そして忠道の光の強い目がテールライトのように強い光をチカの網膜に残しながらソウゴを捉える。

「ソウゴもいるし・・・。」
「いっつもありがと〜な。」
「「・・・・〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」

男の中の男、会長の癖に!癖に首かしげんな!こっちみんな!いや、見て!でも駄目直視できない!眩しすぎる!

「ぐわああああ」
その視線に耐えきれなくなったチカが恐竜のような声を上げながら頭をふる。
「んだ?どした?」
にも関わらず伸びてくる忠道の手に顎を掴まれ、さっきよりもばっちり視線を合わされたチカの顔は真っ赤を通り越して土気色になっていた。そうして頭の中はポップコーンがはじけ飛んでる真っ最中のような有様。
「あ、あ」
「ん?」
けれどもなんとか喉から声を絞り出す。
「も、もっともっと頼りにしてくれた方が・・・・こっちも仕事やりがいあるし・・・」
「そー?」

こくん。

って俺はなんだ。女子か!男慣れしてない女子か!
とセルフ突っ込みするチカ。一方、ソウゴはというと先ほどから自分の身体を後ろから会長様に抱きこまれ、その体温、匂い、逞しさに陥落していた。
この時ほど自分のコンプレックスである、細く男としては頼りない身体に感謝したことは無いだろう。


「「クソ!」」
「え?」
「「もう!」」
「ええ??何だよ、お前らなんか怒ってる?」

ぶるぶる悶え、机につっぷするチカの頭をその大きな手で乱暴に撫で、自分の腕の中で顔を覆いなにかをぶつぶつつぶやくソウゴを見て更に首をかしげる会長様はまったくもって気付いていないが、チカもそしてソウゴも「小姓」として忠道に指名されるのを実のところ今か今かと待っていた。



普段俺様でめんどくさがりの癖に、生徒会の仕事になると誰よりも多い量の書類を捌き、持って生まれたカリスマ性と決断の速さをもってして、(自分が楽しいからなのだろうけれど)数々の行事を今までにないくらい盛り上げ成功させてしまう会長様。
今日も今日とて書類を真剣な様で速読し訂正を次々書き込み、補佐達に指示を出す姿は凛々しく雄々しくかっこいい。

この人と、卒業までじゃなく一生傍にいれる理由が欲しい。
だからこそ、「小姓」という役目が欲しい。
けれど、武家の嫡男である二人が表立って自らそれを言いだせる訳もない。「武士」としての矜持もある。親の決めた正式な小姓が既にいる。

もし自分以外の誰かが小姓にとなればと懸念や焦りもあったが、忠道にその意思は全くとない。
それなら・・・
忠道が楽しそうならこのままでもいい。
貴族や武家を出自に持つ自分たちについてまわるしがらみなど、忠道は生涯知らなくていい。
好きな剣の道をまっすぐに進んで変わらず笑顔でいてくれるのなら。ただの友人の一人としてでも、忠道と過ごせたこの日々を何よりも誇りに思うだろう。


そう思っていた。

[ 4/14 ]

[prev|top|next]
[mokuji]
[しおりを挟む]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -