#3

そんなことをつらつらぐるぐる考えていたチカの首に後ろからにゅうっと太い腕が回される。カフェオレ色の肌に竜の色鮮やかな刺青。




「なんで起こしてくんなかったの?」


低く、けれど心地良い声。

慌てて後ろを振り向けば、大男。そう評して差し障りないだろう男が立っていた。背は180近いチカが視線を上げないといけないくらい高く、日に焼けた褐色の肌。濃い栗色の髪はきっちりと結いあげられたコーンロウ。そして二の腕にはこの学園のTOPである証、昇竜の刺青。
チカの同室者であり、同じく、2年4組、宮本忠道(ミヤモトタダミチ)、この学園の生徒会長だ。

「起こしたけど、まだ寝るって愚図ったのは忠道君じゃあ。俺、また殴られるのは御免やし。」
チカの言葉に不服そうな様子を隠そうともせず片眉を上げ、唇を尖らせる。

「・・・・もーいい。飯行く。」
「まだ三時限目にもなってないけど?」
「・・お前が起こさなかったから朝飯食いっぱぐれたんだよ。」
起きなかった自分が悪いのにも関わらず、こちらを責めるような視線に応戦なんてハナからする気もなく、「ハンズアップ」。男から見ても広いその背中についていく。

前述の通り、この学園の役員は、「家柄」「容姿」「学業成績」「剣術」に秀でたものが選出される。けれどただ一人、生徒会長だけは違った。

「剣術」。
その一点のみで選出される。国が毎年開催する剣術大会で上位に輝いたものがその職に就ける。逆を言えば学園で上位の者が出なければその期は会長の席は空席となる。そんな中、入学したばかりの一年生、五月の大会で日本一に輝いたのが忠道だった。
忠道の家柄はそれこそ箸にも棒にもひっかからないようなものだと聞いているし、勉強も英語や国語等、文系は突出しているものの、理数系はほぼ壊滅状態で、毎度毎度チカが面倒を見ている。容姿は良くないとまではいかないが、目つきが鋭く奇抜なヘアスタイルや肌の色も手伝って一言でいえばガラが悪い。

代々の生徒会長も剣技上位入賞者だった。けれど、それ相応のお家柄。全員が型どおりのおぼっちゃまばかり。そもそも、日本中からお上品な武家の若様が集まるのがこの私立盛藍高校の特色だ。

そんな中、剣技のみで入学してきた異端の生徒会長が非難の的にされないわけがなかった。根も葉もない下世話なゴシップに始まり、陰険極まりない嫌がらせが何カ月も続いた。けれど本人が全くそれに気にせず、皆がダサイと言って敬遠している学校指定の制服(カーキ色の地味な作務衣)を毎日着てくるわ、会長権力ごり押しでモ●バーガーを学食にぶっこむわ、夏が過ぎて使われなくなった屋外プールにフナを大量に投入して勝手に釣り堀屋始めるわ、体育祭で勝手に全競技にエントリーして全て一位になるわ・・・
任期一年と半年目。宮本忠道は、ゴーイングマイウェイ不思議ワイルド系会長様としてすっかり人気を博していた。

生来武家の嫡男として「誇りを持て」「人の上に立つものであれ」と頭に叩き込まれていたソウゴもチカも最初は、武家でも貴族でもない一般家庭出身の忠道を嫌っていたはずだ。
だけど、今となってはどうだろう。

ソウゴが忠道の持っていたバックをベルボーイのように颯爽と奪い取り、熱心に話しかけている。
「次の授業で俺と手合わせしてほしいんだー。今日こそ一本くらいは取れると思うんだよねっ。」「今日の放課後、俺の部屋で晩飯食べない?めっちゃおいしいピザのデリバリーの店見つけたんだよ。ぜったい忠道君も気に入ると思うし。忠道くんの好きなアクション系のDVDも一杯買っといたし〜」
さっきの性別不明のイキモノと同じような猫なで声にぞっとする。まるで甘えたな女のようにその腕を忠道にぎゅうっと巻きつけているのもむかつく。
感情の起伏に乏しいと方々から言われるチカだけれど一度感情が発露すれば我慢が利かない性質だった。勢いのまま二人の間に割り込み、ソウゴの身体を後ろに押しやる。
「いってえ!何すんだよ!サムライカタブツ馬鹿!」
「キーキーうるせえんや。万年発情サル野郎。」
「はぁ?インポのお前よりはマシでしょ?ねえ、忠道君?」
「・・・チカ、インポなの?枯れるの早くね?」
純粋に心配しているのか、首をかしげながら自分の下半身に視線を落としていく忠道を見て目の前が真っ赤になる。
「うぅわ・・・やめなよ。忠道君。そんなの見たら目腐るよ〜インポ菌うつるかもぉ〜」

「・・ソウゴ、いいか、てめえは殺すぞ。ぜってー死なすぞ。」
ガチャリ。音を立て腰の刀の鍔に指をかける。
この国では、「決闘」以外で刀を使う事は許されていない。ただし、「峰打ち」は「見て見ぬ振り」で黙認されている。
ソウゴもそれに臆することなく自分の腰にある脇差二本に手を掛け、「いいけど、チカが死ぬんじゃない?」と笑った。
両者の間に、ピン!と緊張の糸が張る。

教室にいただろうクラスメイト達がいつのまに二人のやりとりを固唾をのんで見守っていた。あの姦しい女男達でさえ空気を読んで声一つ上げなかった。


二人が、同時に利き足を踏み出す。
ギ!と鍔がかち合い、リノリウムの床が甲高い音で鳴いた。
ギ、ギ!

「てめえのだらしねえ下半身のせいで生徒会全部が軽く見られてんのわからんか?カスが!」
「うるさいなあ。澄ました顔して、内面ドロドロのムッツリ変態野郎よりはマシだっつーの!」

「はぁ?!てめえ、まさか、忠道君のケツまで狙ってんやないじゃろうな?」
「・・・・・ソンナワケナイヨー。」
「んや!!てめえやっぱ狙ってんじゃねーか!」
「狙ってんじゃなくて狙われ待ってんだっつーの!!俺忠道君なら、処女地荒らされてもいいし!どんなプレイでも俺歓迎だし!アナニーで準備万端迎え入れ体制完璧だし!」
「アナ・・ッ・・・お、俺だって・・・忠道くんになら、何されたって・・・」

話しの方向がどんどんそれて、どんどん小声になっていく二人にとうとうしびれを切らしたのは当の本人、生徒会長様だった。

鍔迫り合いをしていた二人をいとも簡単に引き離し、二人の肩にぐっと腕を巻きつける。ふわっと香る、蜂蜜のようなざらめ砂糖のような甘いにおい。

「なあ〜真面目にやんないなら、どっちか俺とやれよ。」
にやりと口元を吊り上げ、その空いた唇の隙間からは健康的な白い八重歯がちらつく。
「・・・・あ・・ぅ」
「・・・・・・・・」
待ちきれないのかその手が腰にある刀にかかる。その刀は二人のものにくらべて、長さや形に特徴はない。ただ、がっしりとした作りで、装飾は鍔さえなかった。
まるで忠道のようにまっすぐで飾り気がない。

「どっちでもいいし、二人まとめてでも相手してやってもいいけど?」
「・・・・」
「・・・・」
「なぁ〜?この「オレサマ」が相手してやるっつってんだ。やんの、やんないの、どっち?」
久しぶりの手合わせに興奮したのか、忠道の目がギラギラと輝いている。
チカは正体不明の甘い痛みに胸を抑え、ソウゴはうっとりと瞳を潤ませた。
二人ともがあうあうと喘いだ後、やっとのことで喉奥からしぼりだす。
「「ヤラセテください。」」

剣技が強いもの=男の中の男=超かっこいい。この図式は日本国民全員一致の感性で、チカとソウゴは勿論、周りにいた生徒たち全員が頬を染め、あるものは腰砕けになり、あるものは拝みだす。

誰よりも何よりも強くて、天真爛漫で、エキセントリック。少々俺様で、今まで見たどんな宝石や高価なものよりも、キラキラ輝く会長様。

小姓に対して否定的なチカも、小姓を何人も抱えているソウゴも、その場の全員が心中で叫ぶ。

ああ、会長様!貴方の小姓になりたい!



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