#2

私立盛藍高校。ここでは、私服が許されており、当然、その腰には刀がぶら下がっている。
そこら中で聞こえる、刀のぶつかり合う音。高校での男子必須授業、「剣術」。

キンキン!
ドッ!
固く張りつめた音に重なる足音。

今の時間で言えば、一年生だろうか。
どこかまだ弱い刃合わせの音。




そのリズムに合わせて、2年4組、生徒会副会長、那珂川有親(なかがわありちか)はシャーペンをカチカチカチと数回ノックした。昨日、行事や会議が立て続いた分、承認待ちの書類が山のようにたまってしまっている。今週中にアレを片づけるのは絶対に無理だ。ため息をつくもやる他ない。
すっかり馴染み、良い風合いになった皮の手帳に今日の予定をつらつら書き込んでいく。
冷静沈着、頭脳明晰と生徒から羨望のまなざしを受けている彼は、その容姿も美しかった。
凛々しい眉。日本人特有の切れ長の涼しい瞳。それを縁取る長い睫毛。黒檀のような髪の色。178センチ、日本の平均男性の身長よりやや上回るバランスのいい体躯。癖のある少し長めの髪をワックスで寝癖を直す程度にまとめている。
その出で立ちはまさに清廉なそして慎み深い日本の侍だ。
読み書きをするときにだけかけている眼鏡は、彼にさらに知性を加えその姿は一層輝いていた。

時間に余裕ができたら、風紀から回されてきた没収物リストのチェックも片づけておきたい。
「・・・」
しかし没収品の中にういんういん動く大人のおもちゃやショッキングピンクの縄やらボンテージが含まれているのはどういうことだ。しかもココ全寮制男子校ですけども・・・でも後で見るだけ見よう。だってそう言うお年頃だし。
あ、やべー。こんな良い天気になるんなら布団干しとけばよかった。



美丈夫の生徒会副会長様は、手帳をチェックし、その実あちこちに意識を飛ばしながらも、まるで目の前が見えているかのようにすいすいとその長い脚で廊下を闊歩する。その腰には白いさやに金色の装飾が施された長い刀。

「わ〜!那珂川様のご尊顔を朝から拝見できるなんてっ!」
「やああぁん、超カッコイイ!今日も知的な横顔が素敵っ!」
「写メとった?今こっち見たの撮れた?」


「ちんこついとー身体からようあんな声でるなあ。つか、マジでついとんか。アレで。」

「チカぁ?お前分かってないね〜。あの顔で結構デカイブツ持ってるのがいて、それはそれで逆にエロイんだって!!チカも試せばいいじゃん。帝王学教育だか何だかしらねーけど、こんなド田舎の山奥に押し込まれてんだぜ。溜まってんの出さなきゃマジで病気なっちまうっしょ。確かに乳ないし、ま●こなくてち●こあるし、準備めんどいからオナホよりは性能わりーけどさ、オナホはちょっと味気ないじゃんかあ?」
「・・・・」
「なあなあなあ、なあなあなあ、チカってば!俺の話聞いてる?今俺がありがたいアドバイスしたの聞いてた?」
「聞いてたからこそこんな顔になってんのわからんかいの?ソウゴあんなのによぅ勃つな。」
那珂川有親もとい、チカは、整った顔をゆがめ自分から距離を置いたところできゃあきゃあはしゃぐ男子生徒達を睨んだ。途端に上がる性別不明の金切り声。
「きゃあああ!今、ボクのほう見たよ!」
「違うって、今のはボクを見たの!」
「ボクだよ〜もう!」
「バカバカ!叩かないでよぉ〜」
「やぁ!いたぁい!馬鹿はそっちだよぉ〜」
言いながらお互いの身体をポカポカ殴って(それで殴ってんのか?)「僕らこんなにカワイイの!ねえねえ!」と言わんばかりにこっちに視線を寄こしてくる男子生徒という枠に当てはめていいのか分からないイキモノ。
「ザ・たっちかよ・・・」
どっちだ〜ってやるか、そこからドンフライVS高山の真似やったら逆に友達になりたい。けどぶりっこどもがそんな捨て身のギャグをやるわけもなく(こっちから見たらどっちにしろギャグなんだけど)、どっかの量産型アイドルみたいな上目遣いアヒル口。すれ違うと鼻を突くきつい香水の匂い。細い体に女のように長くのばした髪、そしてよくよく見ればうっすら施された化粧。

ドン引きしているチカを知ってか知らずか、生徒会・会計、同じく2年4組の石神壮悟(いしがみそうご)が機関銃のように間断なくしゃべり続けている。
オナホ新しいの買ったけどきつすぎてローションなかったら無理とか俺のがでかすぎるからとか俺は一日最高で八回シコったとかまったくもって聞きたくない情報。
口を閉じるのは寝ているときだけと自身で豪語し、その実、彼が黙しているところを見たことが無い。
「ソウゴすっげーうざい。黙れや。」
「無理無理無理っwwwwww分かってるくせに〜もういい加減慣れてよ〜wwwwww俺が黙るのは寝るときと死んだときだって言ってんでしょ?そんでさあ、ほら、あの子らこの前俺に「小姓にしてくれ」って言ってきたんだけどさあ。顔かわいいけど、ケツマンがばがば。フェラは上手いからキープしてるけどさあ、くっそーwwwwww本命はチカかよ。俺、泣いちゃいそう〜」と言う割にはその口元は緩んでいる。
「ソウゴ、お前、この学校来てから「小姓」何人抱えてんだよ。」

「小姓?ちげーってお友達だって。」
「課題やら生徒会の仕事やらせて、溜まったら相手させて、飽きたら玩具みたいに捨てるのがお友達?」
チカの責めるような視線に、けれどソウゴはくすくすと笑った。

「だって〜?小姓なんて何人もいたほうが便利じゃん?向こうも好きでやってんだし。」

そう、この国では「小姓」という古くからの文化が今も残っている。

戦国時代から本格的に広まった小姓は、その時代は武将の秘書的役目から雑用、そして主君の命をその身を賭しても守る盾としての役目も負っていた。それこそ、主君にとって代え難い存在であったはずだ。

しかし平和ボケした現代日本で命のやりとりなんてものが滅多とあるはずもない。主君の懐刀であったはずの小姓は、いつのまにか役目を変え、身の回りの世話からソッチの世話まで、いわば若様の良い遊び相手、良い玩具として、親、親類があてがうのが通例となっていた。外で火遊びするくらいなら内々で火遊びしてくれた方が安心だ。
事なかれ主義、日本の最たる文化と海外から槍玉にあげられることも少なくない。

チカも「小姓制度」を良くは思っていなかった。
衆道は武士の嗜み。小姓を抱えるのは武家の権力の証。公に同性愛が認められているものの、どストレートなチカからすれば男をその対象にするなんて嫌悪でしかないし、小姓を人間として扱っていないソウゴのような人間を他にも大勢知っている分ますます反発心は膨らむ。

「あ〜何人とか関係ないだろ?重要なのは〜振られた俺かわいそうってこと。も〜すげえへこんだわぁ。」
言った傍から、ソウゴの隣に控えていた一年が甲斐甲斐しく嘘泣き丸出しのその涙を折り目正しくアイロン掛けされた手ぬぐいで拭う。
「ソウゴ様、・・・私は何があっても貴方の傍にいます。」
「ケンタあ〜お前はほんっとかわいいなあ!そのままのサイズでいろよ〜じゃないとソッコーぶっ捨てっからなあ?」
途端に「ケンタ」と呼ばれる小姓は顔をひきつらせた。それに気付かず笑うソウゴ。

ソウゴは良くも悪くも無邪気だ。ひとなつっこそうな大きな目に、笑うとぺこんとへこむえくぼ。極限まで脱色をくりかえした髪は、見るからに痛んでいる。その服装もとことん軽い。女受けしそうなキャラクターの絵がプリントされたTシャツに、ダメージ加工の上に自分で切り刻んだ、ただのボロ布のようなデニムのパンツ。背は170にぎりぎり届いたところ。ケンタと呼ばれた一年の背はすでにソウゴに追いつこうとしている。
かわいそうってどっちがだよ。自分よりでかくなったらごつくなったら即行切り捨てる。無邪気って言えば何でも許されると思ってんのか。

「・・・許されるのがここか。」

容姿が良く、武家の出で、しかも剣術も日本上位のものが集まる名門校。全てを兼ね備えたものは「生徒会役員」として選出され、多くの特別待遇を受ける。
だからこそ役員たちの大半は自分を特別だと思いこむ。自分は素晴らしい人間で、何の才能も権力もない「その他大勢」の人間をどう扱ってもいいって。

「今だよ!」
「言おう!せーのだよ!」
「せーの!」
「あっ!あの、那珂川様、石神様!」
「本日のお昼、僕ら、ご一緒させてもらえませんか?」
二人の前に立ちはだかるは性別不明のイキモノの群れ。
その勢いにチカは後ずさり、ソウゴは声を上げて笑う。

「あ〜・・・俺は、役員としか食べないことにしとるけぇ。悪い。」
「うわあ〜チカ、冷てえ!かわいそうだろ〜こんな可愛い子たちにさあ。君らこんな酷い奴放っておいて俺と仲良くご飯食べよ〜ね〜。」
言いながら、手近にあったUMA(未確認動物)達の尻をぎゅうと鷲掴む。もちろん生徒会役員にそうされて嫌がるわけもない。
真っ赤な顔で「やだもう」とかなんとかいいながらソウゴを見つめる目には媚という粉砂糖が山のようにふりかけられていた。

「ほんと、良ぉやる。」

誰にでも愛想を振りまいて、誰でも受け入れては次々取り換えていくソウゴと役員以外の人間と一線をひき、慣れ合うのを一切避けている自分。

自分は違うと思っても、結局他人を軽んじていることには変わりないのかもしれない。




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