キスくらいして欲しかった。 #1
塚元 柴。小学校から今までずっと、自己紹介をすれば必ず「両方、苗字みたい」とクラスの誰か一人には必ず突っ込まれてきた、24歳。
社会人になって一年。仕事を覚えて最近楽しくなってきてたとこ。
そんな俺の「週間予定表」は以下のとおり。
日曜日 こっそりカテキョのバイト もしくは遊ぶ
月曜日 朝から仕事
火曜日 早上がり
水曜日 後輩と一緒に得意先回り
木曜日 朝から仕事
金曜日 朝から仕事
土曜日 早上がり
火曜日には何よりも一番楽しみにしている予定があった。
恋人と、仕事帰りに待ち合わせてレンタルビデオを借りに行って、その足で俺の家に行く。夕食は外食の時もあったし、二人で作る時もあった。その後はビデオを見て、セックス。終電までに、その恋人は、帰ってしまうけど、俺にとっては、すごく大事な時間だった。
全て、二週間前までの話だけれど。
ピ。
携帯のメールフォルダを開くと付き合っていた恋人からメールが入ってて、慌ててソレを開いたけれど、その内容は、一瞬期待した「ヨリを戻そう」とかじゃなく「貸してたプライドのDVD今度取りに行く。捨てるなよ。」だった。
「・・・・・合鍵、まだ持ってんだから、勝手に持って帰れよ〜」
あやうく出そうになったくそオヤジという言葉を飲み込んで、そのメールを消去する。
くそオヤジこと、博正さんとは、俺が高校生のときから付き合ってた。でかい声ではいえないけど、博正さんは高校教師だ。しかも妻と子供もいる。とんでもねえオヤジ。
同じ学校の、ノンケの教師をタラシ込んだ男子生徒、俺はそれ以上にとんでもないけれど、それは自覚してる。
ピ ピピ。
【もう捨てた。合鍵、郵送で返してください。】
帰ったら、ディスク、バキバキに折ってやろう。
さっきの予定表にはちょっと訂正がある。
火曜日のセックスはここ数年、なしだった。
博正さんが無理だった。
フェラはさせてくれるけど、俺に突っ込むとなると急速に萎える。
なんて素直で、憎たらしいペニス。
高校時代は、まだまだ成長途中で、自分で言うのもなんだけど、【中世的】という言葉がぴったりの可愛い成りをしていた。だけど、遅ればせながらの成長期は、俺をあっけなく、そして見事なまでに作り変えた。
24になった今、博正さんよりもでかくなった身長。ごつくなった手首。
確かに、これじゃあ、四十すぎのノンケのおっさんは、勃起できないだろう。
携帯をケツのポケットに押し込み、涙のでかかった自分の目頭をぎゅううっと指で押さえる。
24歳。童貞で非処女。
つきあったのは博正さんだけ。
我ながらけなげで、一途で、
「ものすげ、ださ〜。」
駅の改札をくぐって、歩く。前だけを見て歩いた。
終わりを予感していたけれど、あんなにあっけないものだとは思わなかった。
「ふ。」
俺が、いつものように、博正さんの付き合い始めより幾分か勃起角度が鈍角になっているペニスを咥えているときだった。
今日こそは、ちゃんと最後まで抱いてくれるといいな。
そう思って、一生懸命舐めていた。
その時に、あのくそオヤジは・・・・
『もう、いいよ。』
そう言った。
俺が「なんで。気持ちよくない?」と聞けば。
『もう、柴は抱けないよ。』
そう言いやがった。
「ふ。」
ださい。なんだそれ。
最後だって言うなら、無理から勃たせて、抱いてくれたっていいじゃん。
くそオヤジ。
俺のは、博正さんが、剥げてきたって、太ってきたって、ちゃんと勃起したのに。
この数年間、俺、博正さんのオナホール代わりにされて、それでおしまい?
「最悪。」
一瞬、奥さんに「あんたの旦那さんは高校生だった僕をレイプしてホモにしたんです。」って電話してやろうかと思った。
だけど、やっぱ。
やっぱ。
好きだったから。
頷いた。「ああ、そう。」って。
博正さんの、ペニスを口から出しながら「ああ、そう。」って頷いた。
それでおしまい。
十年近い俺達のお付き合いは、二週間前の火曜日にあっけなく終わった。
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