GS

「あーっした!」



車の下に滑り込ませていた身体をボードによってスライドさせながら、育田徹平はその声がした方向に視線をめぐらせた。
そこには、広い背中を折りたたんで客が帰る方向に頭を下げる男。森下優がいる。
徹平は一ヶ月前から首都高下のガソリンスタンドで整備士としてアルバイトを始めた。それについてきたのがこの森下だ。

ザー!
ボードがスライドする音。
慌てて横を振り向くと、徹平と同じ車の下に、森下が滑り込んできた。

「あんた。何してんですか。」
「も〜こんな時間だし、人来ないってば。」
このガソリンスタンドは、二十四時間営業。
本日の深夜シフトチームが、徹平と森下だ。
今現在、時刻はAM2:51

たぶん、さっきの客が最後だろう。後は五時過ぎにでもならないと客は来ない。
「僕のエンジンルームの点検もしてくれない?オイルが漏れちゃってる!」
そういって徹平を車の下から引きずり出して、森下のでかい体が乗っかってくる。

「仕事中です。盛んないでください。」
そのでかい体を何とか押しのけて徹平は立ち上がった。

「大体、誰のせいで深夜までバイトしてると思ってんですか。」
なるだけ声を低くして森下を見下ろす。勿論その視線は「不機嫌」そうにつりあがっていた。
「だーから、きまずいならさあ、俺の部屋に住めばいいじゃん。けど、俺だけのせいじゃないって。徹平もノリノリだったじゃん。ベランダで、セック・・・グェ!」
全てを言う前に、寝転がったままの森下の腹を踏みつける。

「俺休憩入るから、この車、車庫にいれといてくださいね。」
キーを投げつけて、ガソリンスタンド奥に備え付けられているドリンクコーナーに向う。
その徹平の顔は真っ赤だった。

この前、徹平が借りているマンション前の河川敷で花火大会があった。
森下もちょうど遊びに来ていて、二人でベランダからそれを眺めていて・・・

「・・・・・変態か。俺。」


錆臭い手すりを掴み、必死で体を支えた。
夏の匂いのする空気の中、汗まみれの森下の手に腰をつかまれて、後ろから思うままに突き上げられた。
口をその手で塞がれ「声でけーよ。」と耳元で囁かれた時には、もう遅かった。
身を震わしながら、断続的に熱を解放して喘いでる最中に、隣の部屋のベランダから、ガタガタ!と大きな音がした。


俺の右隣に住んでいた会社員は、それ以前はよく挨拶をしてくれたが、花火大会のあの夜からは、徹平と玄関先で会うたび、そそくさと部屋に入っていく。

つまりバレた。




引越し代諸々をかせぐため、今日も今日とてバイトに励んでいるのに、その徹平の苦労を森下は全く分かっていない。徹平のバイトについて来て、同じ職場で何食わぬ顔をして働き始めた上に、二人きりになるたび盛ってくる。

「は〜。」
それに結局は徹平も流されてしまうことを森下は知っているから、始末が悪い。
経験が多いとはいえない徹平にとって森下とのセックスは良すぎる。

「う〜。」
半年前までは、逆ナンされて、なあなあで始まった女の子と、ライトでノーマルな付き合いをしてた。
デートはもっぱら渋谷をブラブラ。たまにセックス。
自分でも淡白だと思っていたが、それなりにいい関係だった。

その関係を壊したのが、件の森下だった。一人の男を巡っての女VS男の争いは今思い出しても身震いがする。
可愛かったあの子の顔が般若みたいになっている。その横で、森下は涼しい顔をして言った。

「徹平はもー俺のチンコに夢中なんだよ。あんたのでかいだけの乳じゃ、もー勃たないの。」
森下のその言葉に、彼女は軽蔑した目で徹平を見つめた。
徹平は、ただただ赤くなる顔を下を向いて隠した。

事実だった。
たぶんもう。女の子のおっぱいを見るよりも、森下の勃起したソレを見るほうがクる。

初めて森下としたセックスは、半ば強姦だった。だけど、そのたった一回目で、徹平は後ろだけでイかされた。
恥ずかしくて、情けなくて、殺してやりたいと思った。

だけど、それと同時に、森下が耳元で囁く自分の名前の緩やかな響きに持っていかれた。


「てっぺー。」
「・・・うわ!な!く、車は?」
「車庫入れしてきたよ。看板も立ててきた。【スタッフ休憩中。御用のお客さまはベルを鳴らしてください。】って。」
そう言いながら、森下が徹平の横に当然のように腰掛ける。プラスチックでできた安物のベンチがギシギシと音を立てた。

「キスしてもいい?」
徹平が良いと言うその前に、森下の唇が重なる。

「だ、駄目です。今仕事中・・・」
言いながら、その言葉とは反対に徹平の男にしては薄い身体の温度が上がっていく。

「てっぺーの目、「ちょうだい」って言ってる。」
「言ってない!」
「言ってる。めちゃくちゃ可愛い。」

チュウっと音を立ててキスをされる。
「う・・・うぅ・・・」
たったそれだけなのに、徹平の背筋がぶるぶると震えた。
「めちゃくちゃかわいい。」

自覚がある。
森下によって、今までの自分を作りかえられている。
「・・・・俺、ホモになっちゃったのかなあ。」
「ん?」
涙声になった徹平に少しだけ動揺した森下の手が止まる。
「・・・・俺、前までそんなじゃなかったのに、森下さんにちょっと触られるだけで、・・・最近、名前呼ばれるだけで、ちんこ勃ちそうにな・・・・。」
言い終わる前に、森下は徹平の口の中に舌を突っ込んだ。
「ふ、あ。だ、め。」

「ほんっと、お前、最高、かわいい。」
プラスチックでできた安物のベンチがガタガタと音を立てた。
その上に、半ば無理やり、徹平の細い体が押し付けられる。

もうだめだった。
徹平の目は、いつだっていじらしく森下の期待にこたえてくれる。
ちょっと揺さぶっただけで、エロい顔になる。

そこも気に入ってるし、そうでなければ徹平じゃない。
森下は、徹平の肩をベンチに押さえつけたまま笑った。

「お客様〜。ガソリンはどうなさいますか〜?満タン?」
森下はいやらしい声色で言いながら、ビッと徹平のつなぎの前のホックを一つ外す。
ちらちらみえる、乳首がなんとも可愛くていやらしい。
つなぎの上から、そっと擦ってやると、徹平が鼻をククっと鳴らした。
「てっぺー、ここ触られるの好きね〜。」
「う・・・」
徹平のつなぎのジッパーを上から一気に引き降ろす。
ジッ−!!!

まるでプレゼントを開ける時みたいにワクワクした。

「これ、色気ねえ〜とかおもってたけど、えろいな。それに脱がせやすい。」
文句の一つでも言いたいのに、手の早い森下は、もう徹平のそこを擦り上げている。

「う、あ、・・・っ、森下さん。し、ごと。」
何を今更、こんなになってるのに。徹平がそれ以上「仕事」と言わないようにキスをする。柔らかい唇を優しく噛んでやる。

「今日、出かけにやったばっかだから柔らかい。」
「ふ、・・・ふ・・・」
森下の中指が奥まった入り口をぐりぐりなでてやると、徹平は自分の腰を同じようにぐりぐり森下の腹にこすりつけてくる。

「お客さん〜どうします〜?」
「う。うう。」
どこのスケベ親父だ!最悪だ。そう思うけど、徹平の頭ははもうとろとろに溶けていた。
「どーして欲しい?」
徹平の目は、しっとり水の膜に覆われ震えている。

「・・・う、入れて、ください。」

細い徹平の腰を、森下は半ば乱暴な仕草で掴み、既に服の中から引き出していたそれを、徹平の望んでいる場所に宛がう。
それだけで、そこはびくびくと震えた。

珍しく。ていうか初めて、本気なのかもしれない。
ノンケは、落とすのが難しい上に、正気に戻るのは早い。徹平は何ヶ月、このままでいさせてくれるだろうか。泣いてしまうかもしれない。
柄じゃないって自分でも思うけれど。
「徹平好きだよ。」

言葉とともに、ゆっくりと徹平の中に沈んでいくそれを見ながら、森下は笑った。

ジジー・・・

無機質なカメラが2人を写していた。また、バイト先を考えなきゃいけない。
揺するたびに声を上げる徹平の頬を撫でながら森下は声に出さず呟いた。


「もう少しだけ、騙されてて。」


【End】

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