#9

嬌声。汗と精の濃い匂い。上がり続ける室内の温度。全てが昨日までの執務室ではあり得なかったものだ。




チカとソウゴはベッドの上で盛りの突いた猫のように交わる二人をまるで舞台をみているかのような心持でじっと見つめていた。それほどまでに今目の前の光景は現実的ではなかった。

けれど、二人の視線に気づいた忠道がこちらを向き、眉尻を下げ、それこそ子供のように泣きだした瞬間、引き戻された。舞台の観客から、彼に懸想する一人の男として。

「おっお前!!!忠道君に何の薬飲ませたんだよ!でなきゃ・・・」
よがり狂うと言っても差支えないほどの忠道の乱れように動揺を抑えきれないソウゴは拳を強く握り、忠道から視線をそらし膝が崩れ落ちそうなのを必死にこらえ声を上げる。
允只はその様子を見て目を細め、ころころと笑う。熱気がこもるこの場に不釣り合いなその声はやけに響いた。

「クスリ?そんなもの使うわけだろう」
じゃあ、なんで。
だって、忠道はノーマルだったはずだ。
ノーマルどころか、性的なことには全く無関心なくらいで、小姓になりたいと思っていた二人が途方に暮れていたほどに。
なのに、今、自分より一回りも二回りも華奢な少女のような男に犯されて悦んでいる。

「お前らも大侍なら小姓の一人や二人いるだろ?余所で悪さをしないように内々で済ませるよう、子供のころから付けられたそういう相手が。下賤なお前らにさえ与えられたモノを、将来、国を治めることを運命づけられた俺に与えられなかったわけもあるまい。」
「あっアー!ぅっ・・・ひ」
パチュパチュと淫猥な音とともに、まるで掘削するようにきつく突きこむと忠道の足先がぎゅううと丸まるのがわかった。

「俺が兄様(にいさま)を仕込んだんだよ。」

隣のチカが息を飲んだのがわかった。ソウゴは後ずさり、壁で自分の身体を支えなければならなかった。




允只は、その後も、二人を追い出そうとはしなかった。
「やぁ!もうやだ!・・・っや、もう死ぬっ!死んじゃうぅ・・・ひぐ」
低い声。いつも自分達を呼ぶ時と同じはずなのに全然違う声。
允只は忠道のことを「兄様」と呼んだ。二人は知り合いだったのか?
でも、チカ達が幕府の失政を話題に上げても何も言わなかった。ただ苦笑いしていた。「俺には政治はわからないから。」と。
でも、忠道は「幕府」の人間だったのか?
どうして自分達には言ってくれなかったのか?
頼りにしてると言ってくれてたじゃないか。
なのに、どうして。

「大丈夫ですよ。男も、女みたいにイケるんです。僕に任せてください。」
忠道のそこはもう兆してはいなかった。けれど、允只がその身体に触れるたびにとろとろと透明に近い白濁を吐きだし、色良く焼け奇麗に割れた腹筋に水たまりを作る。

允只は身体を起こし、黒子達がもはや抵抗するどころか指先一つも動かせなくなった忠道の身体を抱き上げる。
「ひやぁ!な、なにっ何する・・・」
両手を抱えられ、両足を左右に押し広げられ、まるで幼い子供に排尿をうながすような格好に忠道が悲鳴を上げる。
「やっやめろ!」
なんとか首をめぐらせ、自分の下に陣取った「ソレ」に血の気が引く。未だに天を向いたまま脈打つそれは、子供の腕よりも明らかに太く長かった。それが自分の中に入っていたことへの驚愕と今からされるであろう行為に対する恐怖で歯の根が鳴る。
「恐がらなくても大丈夫ですよ。ちゃんと兄様のここは僕のを上手にしゃぶれたでしょ?」
「やだっ」
目の前にはチカとソウゴがいた。何もかもが晒されている。
嘘だ。嫌だ。
やだ。やだ。



「やっーや!チカ、ソウゴっ・・・」


この場において唯一自分を救ってくれるであろう、二人に必死の思いで腕を伸ばす。
「ソウゴ!ちかぁ!」 チカもソウゴもその声に弾かれるように、ようやく身体が動いた。涙と鼻水と涎まみれでくしゃりと顔を歪める忠道に駆け寄る。

忠道はソウゴの首に縋るように抱き着いた。けれど細身のソウゴでは忠道の体格を支えきれず、チカはただその指先を掴むことしかできなかった。
凶悪な杭が直腸を超えたその奥を容赦なく突き上げる。
悲鳴さえ出ず打ち上げられた魚のように痙攣する忠道は確かにイっていた。けれど、そこは依然柔らかく萎えたままで。けれど鈴口から透明な水のようなものが断続的に噴きだし、シーツの色を見る見る変えていく。
「ひぃっ・・・う・・・う。」

羞恥と快感の余韻で忠道はひきつけを起こしたように息を荒げていた。そうしてその過ぎた快感をどうにかやり過ごそうとソウゴにぎゅううとしがみ付いてくる。 あの甘いにおいがふわりと漂う。
汗にしっとりと濡れた忠道の髪がソウゴの首筋をなでる。丁寧に結いあげられたひと束を掬えば、忠道はくぅと鼻を鳴らした。
そして繋いだままのチカの手をきゅうと握る。ソウゴの肩越しに見えたそのこげ茶色の目はいつもの鋭さは立ち消え、砂糖水のなかでたゆたう琥珀のように潤み、とろとろに溶けている。

「っ〜〜はあ〜すっげえ兄様、名器すぎます。」
忠道を挟んで、チカと向かい合った允只は胴ぶるいをしながらそう言った。奥の奥に注ぎ込むように腰をやわく押しつけられ、忠道がひんひん泣きじゃくる。
「おい!もうやめろよ!忠道君が・・・」 そして、自分を睨みつけるソウゴの唇を食むように塞いだ後、若様は花が綻ぶように笑った。

「兄様と間接ちゅー、嬉しいだろ?」


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