・    


いきなり、光が煌めいた。



オレははっと瞼をあけた。誰かの眼がきらきら閃光を放って、じっとこちらを見ているように思った。



凍える寒さも、肉を抉るような痛みも、もう気にはならなくなっていた。



何だか心も身体も軽やかで、とても具合が良い。



――――――――そして、暖かかった。



この暖かさには、覚えがある。



オレは、自分を包み込む温もりのことをそっと抱き返した。



触れ合ったところから、それの体温が伝わってくる。



そして心臓が脈を打ち、皮膚の下には血が通っているのを、確かに感じた。



未だに視界の景色は回復せず、辺りがどうなっているのかはさっぱり認識できなかったが………



それでも、自分を抱き締めてくれている存在が何なのかは、よく分かる。



「……………………グレイス。」



名前を呼べば、穏やかで懐かしい声が返事をしてくれた。



「やっぱり、グレイスか…………。」



それが思った通りの人物だと分かり、オレは嬉しかった。


だから、抱き締める力を更に強くする。



…………言いたいことや喋りたいことは沢山あって、あとからあとから溢れてくるみたいだった。



でも、その時のオレはとても疲れていた。



だから話したいことや、やりたいことはあとで………ひと眠りしたあとで、沢山しようと思う。



今はひとまず、ゆっくり休もう。



でも、眠る前にこれだけは言っておきたかった。



「ただいま。」



やっと言葉をひとつ絞り出すと、おかえりなさい、とよく馴染んだ響きで返される。



心から安心して、オレはようやく身体の力を緩めることができた。




なあ、グレイス。


お前、オレが目を覚ますまで傍にいてくれよな。


ちょっと不自由かもしれないが、今は近くにいたいんだ。



もう、口にすることは適わなかったけれど、強くそう思う。



何かを応えるグレイスの声がする。


良かった。どうやら伝わったみたいだ。



…………最後に、彼女の顔を見ておきたかった。


だから懸命に目を凝らして、声がした方を見る。



僅かに光が差して、こちらを眺めては笑っているグレイスの姿が浮かび上がった。



もう………、それで満足だった。



オレはゆっくりと瞼を下ろす。



とても安らかな気持ちで、意識はゆっくりと微睡みの中に沈んでいく。



そして眠りに落ちる瞬間に懐かしい匂いを感じた。



……………ああ。そうだ。この匂い。



オレが大好きな、あの季節の香りだ。


[*prev] [next#]
top
×
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -