十七・夜明け

……………朝だ。


僅かな白い光が、雨戸の隙間から部屋に差し込んでくる。



今日の訓練は……確か、午後からの筈。


オレは寝返りを打っては欠伸をひとつした。………そして、もう一度寝直そうと意識を微睡みに沈めようとした時に。


ふいに、どろっとしていた辺りの蒸し暑い空気の中、ひやりと懐かしい心地よさを感じた。



(……………そうか。オレはまだ、こんな夢を見るんだな。)



それならば、もう少しだけこの夢を見よう。



手を伸ばして、真っ直ぐに伸びた髪をひとすくい手に取ってから指に巻き付けた。


こそばゆい感触がして、オレの頭髪もまた撫でられてるのだなあ、と感慨に浸る。


頭を撫でられるなんて、もう何年ぶりにされたのだろうか。



しばらくさせるがままにして、オレは微睡みの中で確かに幸せを感じていた。



………やっぱりお前、戻って来てくれたんだな。



あのまんまじゃあんまりだもんな………。



それなら、文句のひとつやふたつ言ってやらねえと……と思ったけれど、今はそんなことは、どうでも良いのかもしれない…………。



「…………グレイス………、おかえり。」



小さく、息を吐くようにもらすと……耳のすぐ傍で、「ええ、ただいま。」という声が、微かに聞こえた。



オレは、ゆっくりと瞼を開いた。



少しだけ、怖かったけれど。瞼を空けたら、また、いつものひび割れた漆喰の天井しか映らなかったらどうしようかと思ったけれど。



それでも、オレは視界に次々と入ってくる景色を確かに受け止めた。



そして今一度、お前の姿を確認すると、弱々しく笑って、その名を呼んだ。



グレイスもまた、オレの名を呼んで………「おはようございます。」と、静かに朝の挨拶を告げた。

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