十七・この部屋に帰って来た
………………色々なことが、あった。
渦巻く様々な陰謀に、オレは正直、心を持って行かれそうになる感覚を何度も覚えた。
そんな時代も終わり、オレはかつて過ごしていた天井に大きなひび割れがある部屋に、戻って来ている。
少し変わったことは、調度品が以前より多少高価になったことか。
机なんかは常に地震でもあったんじゃないかというくらいぐらんぐらん揺れていたので、買い替えたのだ。
金銭的に、それ位の余裕はできたから。
…………この部屋に帰ってくると、思い出す。
二年前の夏の不思議な出来事を。
この目まぐるしい期間中はすっかりと忘れていたが……、それでも、心の何処かにはいつでも隣に座ったときの懐かしい匂いとか、真っ直ぐに伸びたくすんだ色の髪だとか…そういうものが、あったような気がする。
ふいに夜、心に忍び込んでくる恐怖や孤独に耐えることができたのは、この記憶があったからなのか。
グレイスが、オレのことを思いやってくれた、記憶があったからなのだろうか…………。
窓を開け放して、その桟に頬杖をついていた。
一昨年よりも、背が伸びた気がする。窓の高さが何だか低くなったように思えるのは、その所為だろう。
沙椰、と風が吹いた。
湿り気を帯びては、生暖かい。
……………そうか。今年も、夏がくるんだな…。
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