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『おかえり、グレイス。ジャンには会えた?』
『ええ。それはもう相変わらずの減らず口でしたよ。更に塩までまこうとする。何て死んだ人間に優しく無いんでしょう。』
『…ジャンらしいな。』
『まあ……元気そうでした。それだけは何よりです。』
『良かった。僕らが死んでしょんぼりしているかと。』
『ええ、もう大打撃ですよ。調査兵団に入るなんて血迷事を言い出す位ですから。』
『そりゃ凄い。ようやく僕らの有り難さに気付いたかな?』
『ざまあですね。ざまあ。』
『二回言ったよ…。』
『………………………。』
『………………………。でも、何も言わずに帰って来て、良かったのか。』
『……どのみちもう時間が迫っていましたし…下手に泣くのも泣かせるのも嫌だったんです。
どうせ別れるのなら、どのような形でも構わないじゃないですか……。』
『まったく……。お前って奴は…何とかは死んでも治らないってほんとだったんだなあ……』
『何とかってなんです。何とかって。』
『さて…なんでしょう……。』
『マルコ、あなたちょっと意地悪です。』
『違うよ。意地悪なんじゃなくて僕は少し怒っているんだ。折角与えられたチャンスを何故そう無下にしたんだ。』
『………………………。』
『もう二度とこんな幸運は無いよ。グレイスは自分で自分の最後の幸せへの道を断ち切ってしまったんだ。』
『だって………。ただ、忘れるのを待つだけの存在だなんて、虚しいだけじゃないですか。それならば、いっそのことって…………』
『……………そういう破滅願望は君のよくないところだね。その所為で全部、失ってしまったんじゃないか。』
『分かってますよ………。分かっているんです……。分かっているつもりなんですよ………。』
そう言って、グレイスは静かに目を伏せた。
その姿を僕は、ただ、見守っていた。
……………グレイス。
お前は、ジャンのことを好きなんだろう。
それなら信じてやらなくちゃ駄目じゃないか。
相変わらず自分に自信が無いのかもしれないけれど、今の僕らにできるのは人を信じることくらいなのだから……それを怠ってはいけないよ。
賭けても良い。
ジャンは、絶対にお前を忘れることはしないよ。
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