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ほう、と。息を吐いた。
そして……目をゆっくり細めては、死んだ様に眠るジャンの事を、見下ろしていた。
真っ白い指が伸びる掌を……静かに持ち上げて、短い彼の頭髪を。撫でる。
その口元には、柔らかい笑みが描かれていく。
瞳は暗闇の中、微かに揺れては懐かしい色を灯していた。
…………指先が、彼の頭髪から頬へと下りて行く。
そして涙の跡を発見しては、繰り返し、愛しそうになぞった。
「…………。泣き虫は、昔からちっとも変わっていません、ね…。」その声もまた、昔から変わらずに女性にしては低く、落ち着いた声だった。
それは散らかった部屋のすみずみにまで行き渡り、沈む様に消えて行く。
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