最後の星が消えるまで | ナノ


▼ ベルトルトと過去の話


「ベルトルト.....。泣くのはやめなさい。....男の子でしょう。」

「皆僕の事を弱虫だって.....」

「そう....。」

「僕みたいな奴、きっと誰も好きじゃないんだ.....」

「私は貴方の事、嫌いではないわ。」

「.....本当に?」

「えぇ。」

「それじゃあ....ずっと一緒に...いてくれる?」

「そうね.....。ずっと一緒にいるわ......」






昔から僕の姉さんはあまり笑わず、愛想の無い人だった。

それでも僕は彼女の事が好きだった。

時々見せる不器用な優しさとか....優しく微かに細められる目とか....そういう一瞬がとても好きで仕様が無いのだ。

姉さんが僕の傍に居て、一緒に同じ時間を過ごすだけで幸せだと思えた。

彼女が僕の名前を呼んでくれると胸が痛く切なくて、それでも何だか嬉しくて....いつまでも話をしていたかった。


この気持ちは成長するにつれ落ち着いて行くと思っていたけれど、僕が彼女の身長を大分追い越す頃になっても....落ち着くどころかもっともっと強く思う様になっていった。







シガンシナ区の壁を破壊した日の夜、僕は盛大に戻した。

吐いて吐いて胃の中身がなくなって胃液しか出なくなってもまだ吐瀉物はせり上がって来る。


(.....僕は、何と言う事を......)

意識しまいと努めていた罪悪感がむくむくと頭をもたげる。

......もう....壁は突破されてしまった。後戻りはできない.....


....ふと、肩に温かなものが触った。


「姉さん....」

彼女が後ろから僕の事をそっと抱き締めてくれていた。

言葉は無かったけれど、その行為だけで充分彼女の心が伝わってきた。
胸の内で絡まり合う鉛の様な罪の意識が和らいいくのが分かる。

「姉さん.....僕は、僕たちは人を沢山殺してしまった...」

「そうね。」

「一体....どうすれば良い。どうすれば....」

「私たちの勤めを果たしましょう。それだけよ....。
でも、きっと私も貴方も...人間らしい死に方はもうできないでしょうね」

姉さんはそう言いながら白いハンカチで僕の顔中から垂れ流されている体液を拭う。

「.....貴方は何も悪くないわ。責任は私が持つ。」

静かな声が体の内側に沁みて来る様だった。

二人の体が触れ合った箇所が溶け合って、そのままひとつになって行く様な...そんな錯覚さえ感じる。

「ベルトルトは何も悪くないわ....。」

彼女は僕に言い聞かせる様にその言葉を繰り返した。

「姉さん.....」

先程とは違う種類の涙が頬を伝う。
貴方がこんなにも優しいから、僕は人殺しの化物になりきる事すらできない....

「傍にいるわ。だから、安心して良い....。」

ゆっくりと言葉を紡ぐ彼女は、こんな時でも石の様に無表情だ。

苦しくは....辛くは...ないのだろうか....。

それも、今は考えている余裕が無い。僕はいつだって自分の事しか考えられない駄目な弟だ....。

「姉さん.....ごめん。」

そのまま僕は静かに涙を流し続けた。

彼女はただずっと体を抱き締めてくれている....。

世界中に憎まれても、たった一人姉さんが僕を愛してくれさえすれば、それで生きていける....。そんな考えが、ふと....頭をよぎった。


僕の世界の中心は姉さんだったのかもしれない....。


 


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