最後の星が消えるまで | ナノ


▼ アニの誕生日 後編

.....アニは、中庭のベンチに腰掛けていた。


アルマが何も言わずに隣に着席しても逃げる気配は無い。...が、反応も無い。



しばらく二人は無言のまま過ごした。



中庭の中心部では噴水が水を巻き上げている。....さすが憲兵団、調査兵団の公舎とは違って中々に豪奢だ。


「....アニ」


.....このままでは日が暮れてしまうと思ったアルマはアニの肩へと手を触れようとするが、それは弱々しく振り払われる。


「あの女にあんな事をした手で、触らないで」


その言葉に従い、アルマは手を膝の上に戻した。


「アルマは私たちの姉さんでしょう...?」


アニがようやく顔を上げてこちらを見据える。

それから、白いハンカチを取り出してアルマの指を痛い程拭った。


「あんな女に、気安くお姉さんなんて呼ばせないで...!」


そのハンカチを傍の植え込みに投げ捨てながら言う。


アルマは赤くなってひりひりとする指先をじっと見つめた後、「そうね...」と零した。


「......もう、触れても良いかしら?」


手を伸ばし、再び肩に触れようとする。....今度は拒否されなかった。

それに安心して、ゆっくりと体を抱いてやる。


......温かい。....石の様に体温を亡くしていた時は分からなかった。

人というのは、こんなにも温かいものなのだと....


「.....お誕生日、おめでとう、アニ」


耳元で囁けば、「言うのが遅い...」と呟かれて強く抱き返される。


「毎年一番に言いに来てって、そう約束したじゃない....」


「....そうね。誰かに先に言われてしまったかしら?」


「ううん....。姉さんが一番....。」


アニが首筋に顔を埋めるので、繊細な金糸の髪がそこを霞めて行く。


彼女が与えてくれるこそばゆさが愛しくて、しっかりと抱いてやった。



.....いくつになっても...やはり、この子は私の妹だ。



「......姉さん.....本当に、良かった。」


アニが腕を解き、そっと胸元に触れてくる。柔らかさを、鼓動を、呼吸を確認する様に。


「もう、何処にも行かないで...。」


アルマは静かに息をして、「何処にも行かないわ」と小さく、けれど確かな声で言う。


「約束して。」


胸の辺りの服を掴まれた。沢山の皺がそこに描かれる。


「約束するわ。」


アルマはアニの体から腕を離し、自分の胸の上にあるアニの掌をそっと包んだ。


「.....アニも、約束して頂戴。」

「何を....?」


アニの手を握る力が強まる。


「無理をするなとは言わないわ....。けれど、どうか自分を祖末にしないで頂戴。....悲しむ人がいるのだから。」


.....アニの呼吸の音が聞こえる。そのまま胸に顔を埋めてくる彼女を、再び...何も言わずに抱いてやった。





例え貴方が戦士じゃなくても、私は貴方を愛しているわ。



これは、まだ言えない。....言うのは、全ての務めを終えた後。



アニ、好きよ。



生まれて来てくれてありがとう。



何年、何十年先の誕生日も、貴方へ一番のおめでとうを送るわ。



優しい優しい、私の....たった一人の妹へ....








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