最後の星が消えるまで | ナノ


▼ ベルトルトと週末の夜 後編

.....姉さんが僕の部屋に来た。いつもの様に。

普段なら...その細く柔らかな体を抱いて、頬を寄せて、ひとつ...キスをするのが僕らの通例だ。


けれどそれができなかった。ただベッドに腰掛けて、彼女の方を見る事もできない。

呆れる程子供じみた事をしているのは分かっているけれど....


僕は、深く....傷付いていたのだ。



姉さんもまた、何も言わずに僕の隣に腰掛けた。

肩に触れ、もう一方の手で頬を撫でられる。淑やかで少し冷たい手。...柔らかい、血の通った手。


されるがままにする。彼女は肩に置いていた方の手も僕の頬を包み込む様に添えて...自分の方に顔を向かせた。

ゆっくりと唇が重なる。....それだけだったけれど、とても優しい行為だった。


二人の視線が緩やかに絡まった。.....姉さんの表情は相変わらず変化がない。けれど心から僕を想っていてくれている事がよく...分かる。


「どうしたの」


そうだ、この声、この言葉だ。


「何があったの」


昔から変わらない。僕が悲しめば必ず貴方はこうして寄り添ってくれた。


「何か、私にできる事を教えて」


その行為こそが....


「私が何かしてしまったのならそれも教えて」


僕に彼女に対する狂おしい程の恋慕を抱かせた、始まりだ。


「私は貴方に謝りたい」


.......僕はこの人を愛している。生まれた時から、ずっと....


想いが適ってひとつになって...それだけで充分な筈なのに、何故心はこうも昏いのか。

これは...我が儘なのだろうか....



僕の頬に触れていた白い掌を掴み、自分の方へと引く。

それに合わせて姉さんの体は僕の胸に収まる。それを抱いて、ゆっくりとベッドに二人で沈んだ。

姉さんはそれに従い、自分も...僕の体に腕を回してくれた。


二人の顔の位置は近かった。互いの吐息が頬をかすめる位。


.....姉弟で愛し合って、何が悪いのだろう。

自分に似たこの顔が愛しくてたまらないだけだ。自分と同じ血液が愛している人の中にも流れている事が幸せで仕様が無いだけだ。


その気持ちを表す為に今度は僕から口付ける。

想いの丈を示す為に、深く、深く。

姉さんも...それに、ちゃんと応えてくれた。確かに二人は愛し合っているのだ。

僕らは...どうしようもならない世の中の理に背いて、大きな罪をいくつも犯しているのだろう...


「今日...姉さんと、あの二人の男の会話を聞いたんだ」

彼女の耳に唇を寄せて囁く。姉さんの体は微かに震えた。

「.......ごめん。僕はまだ...子供なのかもしれない。分かっているのに....」
それでも、嫌だったんだ...小さくそう呟いて強く彼女を抱き直す。



しばらくそのまま...指先ひとつ動かさず、二人は過ごしていた。

部屋は全くの無音だった。

僕は姉さんの黒い髪から除く、形の良い耳を眺めていた。

真っ白な胡粉の中に薄紅をひとつ落とした様な色で、耳殻は桜貝に似ている。

そして...柔く食むと小さく声を漏らして反応してくれた、その行為を思い出してはひどく切なくなった。



「....ごめんなさい」


しばらくして、胸の内から姉さんの声が聞こえる。


「私、貴方の事を傷付けてばかりね」


少し腕の力を緩めてやると、彼女は顔を上げて僕と視線を合わせて来た。


「そんな事無い...。姉さんは何も悪く無いよ...けど、悲しかったんだ...。」

「そう....。悲しいわね、本当に....。どうしてかしら。」

欠けてしまった心を埋める様に、その首筋に唇を寄せて跡を残す。いつもは付けないけれど...今日だけは、貴方は僕のものだと知って欲しかった。

「....姉弟じゃない方がよかったのかしら」

そこを細い指でなぞって淡く溜め息を吐きながら....姉さんは零す。

「そんな事言わないで。....姉弟だからずっと一緒にいられたんじゃないか。僕の姉さんだから...僕は貴方を好きになったんだ....。」

.....姉さんに嫌がる気配が無かったので、もうひとつ跡を付けてみた。

ついでに先程眺めていた耳にも唇を寄せて弱く歯を立てると、やはり微かに反応してくれて...どうしようもなく貴方が愛しくなる。


「アルマ」

ふと、彼女の口から声が漏れた。

何の事だろう、と視線をそちらにむけると、自分と同じ色をした瞳と柔らかく視線が交わった。


「....私はアルマよ。名前を...呼んで。」


優しい声に、胸が熱くなる。...そして言葉の意味を理解すると...その熱は、血液を巡って全身を満たした。


「.........アルマ.....さん」

耐え切れなくなって...遂、敬称をつけてしまった。...顔が熱い。きっと僕は情けなく赤面している事だろう。

姉さんは僕の両頬を掌で包み込み、ぐいと自分の方へと寄せる。

そして耳元で、「ちゃんと呼んで」と囁いた。


僕は...しばらくの逡巡の末、本当に小さな声で...「.....アルマ」と呼んだ。

......姉さんの唇が、ほんの少しの弧を描く。


「.......嬉しいわ。」

そう言ってから、僕の手をそっと握って指を絡めて来た。

...随分と大きさが違うな...。僕は...いつ、姉さんより何もかも大きくなってしまったのだろう....。もう、思い出せなかった。


「明日のお休み...少し、遠くの街にでかけましょう」

「え....」


それは、想いが通じ合ってから初めての事だった。

いつも...休日は、人目につく事をはばかって僕の部屋で...恋人同士として過ごすのだが...


「誰も私たちを知らない所に行くのよ。そこで私は貴方と...太陽が出ている空の下で愛し合いたいわ。」

その時は名前を呼んで頂戴...。さっきみたいに、と柔らかく微笑む姉さんはとても綺麗で...僕が最初で最後に愛したのがこの人だった事は、何て幸せなのだろう...例え許されないものでも...と、心から思った。


「うん...そうしよう。」

体の向きを反転させて、姉さんの上に覆い被さる。僕も...きっと微笑っていたと思う。

姉さんが優しい表情で僕の頬を撫でた。その掌を掴んで指先に口付けた。

そのまま名前を呼ぶ。....アルマ、と。

彼女はとても切なそうにそれに耳を傾けていた。

もう一度、何回も、繰り返し繰り返し名前を呼べば、僕の首に彼女の腕が回る。


細く頬に涙の緒を描いた目元に口付けて、唇にも同じ事をした。

耳元には僕の名前と愛の言葉が囁かれる。


ひどく切なくて、体がばらばらになる程の痛みが胸に去来した。

けれど....この苦しみさえも傍に居る証ならば、それすらも幸福なのだ...。



「愛しているわ、ベルトルト」




その一言だけで、醜く歪んだ僕の姿は人間の形を取り戻す。



「アルマ、愛しているよ」




そしてまた、この言葉が、いつまでも貴方の胸に留まりますように。


...二人が人間として愛し合う事を許される....その日まで。


ずっと、ずっと......。






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