最後の星が消えるまで | ナノ


▼ ベルトルトと週末の夜 前編

週末、全ての訓練が終わり夕焼けが出る時。


.....僕が、一番好きな時間......。



最も、この時刻が嫌いな人なんてそういないだろうが...でも、僕と姉さんにとっては特別。


何故なら夕飯が終わり、姉さんが僕の部屋に訪れた時から...僕らの関係は姉弟から愛し合うものに変わるからだ。....男と、女として。


少しの間...本を読んだり、ぽつぽつと話をしたり...そういう何気ない時間を過ごしてから、一緒に寝て...次の日も一日中一緒にいる。


多くは望まない。二人で居る事ができれば、それだけで...僕の世界はどこまでも幸せで満ちていくのだから...


――――


着替えを済ませて公舎の長い廊下を歩いていると、向こうの方から未だに制服のままの姉さんが歩いて来た。


(あ、姉さん....)


喜んで駆けて行こうとしたが...それは少し我慢する。

あくまで僕らはイレギュラーな存在なのだ。今日の夕飯が終わるまで、普通の姉弟でいなくては...


.....姉さんはこちらに気付いていない。

何故なら、二人の男...恐らく二つか三つ年長者...に挟まれて何かを執拗に問われているからだ。


僕はあの人達があまり得意ではないので、向こうからは死角になる箇所に隠れて様子を伺う事にする。

姉さんは少し嫌がっている様だ。...もしもの時はすぐに助けに行こう。


「アルマさ、本当に付き合っている人とかいないの?」

傍立てていた耳に入った言葉に、僕の体はぴくりと震えた。

姉さんは終始無表情で無視を決め込もうとしていたが、縦社会の兵団ではそうもいかなかったらしく、ゆっくりと口を開いた。


「いません」


その一言に皮膚が粟立つのを感じた。


......そう、そうだよね。いない...よね。言える訳...ないもんね。



「ほらあ、しつこいと良い加減嫌われちまうぞ?」

やめろって、と連れらしいもう片方の兵士が可笑しそうに言う。

「え、だってさあ...アルマ、そういう関係の奴いないならちょっと俺と付き合ってみろって!一週間で好きにさせてやるから」

男の腕が姉さんの肩の回った。


....やめろよ。僕の姉さんをそういう目で見るな。

...姉さんは僕のものなのに...。


「だからさあ、アルマは駄目なんだって。こいつ、弟とできてるから」


連れの兵士の言葉に...僕、姉さん、男...三人の肩がぴくりと震えた。

「....えっまじかよ」

「明らかにただの姉弟の雰囲気じゃねえよな、お前等二人は。抱き合ったりキスしている所を見たっていう噂も聞くぜ?」


.....いや、確かにそういう事は常々しているが....人に見つかる様な場所では断じてしていない。


そうか...。こいつ、楽しんでやがる。


「...確かに、ただの姉弟にしちゃあ仲良過ぎだよな...。終始一緒にいるし...」

二人は姉さんの横顔を両側からじっと見つめ、彼女の反応を伺っている。


.....面白半分に僕らの関係を探られるのが非常に不愉快だった。


悪い事をしている訳じゃ無い。大好きな人と一緒になっただけだ。

それなのに...何故、何故こうも後ろめたい思いをしなくちゃいけないんだ...!



「私は弟と恋愛関係にはありません」


姉さんの口から、当然の事の様に言葉が紡がれる。

それに対して、二人の兵士はほっとした様な...少しつまらなさそうな...そんな表情を見せた。

対して僕は...脊髄を伝ってひどい悪寒が這い上がってくるのを感じていた。


.....勿論、分かっている。分かっている...け....ど....

あまりにも容易く言われてしまった言葉に、胸がぎりぎりと締め上げられた。


「その様な噂を立てるのは...私だけでなく弟にも迷惑がかかります。やめて下さい。」

失礼します、と一言零すと姉さんは進行方向を変えてあっという間に立ち去ってしまった。


残された二人の男はその後ろ姿をぽかんとして見送った後、顔を見合わせる。


「.....嫌われちまったらお前の所為だぞ」

「元より好かれてなんかねーだろ。駄目駄目、あんな石で出来てる様な堅物は落とせっこないって。」

「そーかなー...。まあ、でも弟とできてなくて良かったぜ...。」

「当たり前だろ。事実だったら流石にドン引きだ。」

「そ、そうだよな!そんな訳ねえよな!あー..良かった。」


二人は何事もなかった様に上機嫌で会話を再会させる。こちらへと歩を進めているのが気配で分かったので、僕は..震える足を必死で動かしてその場から逃げる。



...今すぐにでも、あの男に向かって、姉さんは僕のものです。諦めて下さい..と、そう言いたい...!

当たり前の事が何故言えない!

そして姉さんも何故あんな事、...僕と、あれだけ愛し合っているのに...


.....分かってる。充分過ぎる程分かっている...。


それでもやるせない!

心にも無い事だとしても...姉さんの口から...そんな事、聞きたくは無かった...!!






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