最後の星が消えるまで | ナノ


▼ ベルトルトとライナーが話す

「......姉さん。」

暗闇の中、どうしようもない胸騒ぎに駆られて目を覚ました。


「姉さんが、泣いている.....。」

彼女は決して涙を見せない人だけれど、何も感じない訳じゃ無い。

どうしようもなく悲しくなる時だってある。今が.....その時だ。それが、僕には分かる。

....姉さんを、一人にしてはいけない。

上着を一枚羽織り、時刻を確認する。日付はとうに越えていた。


部屋を出て、悲鳴の様な音を立てて軋む廊下を歩いていると後ろから聞き覚えのある声で呼び止められる。

振り向くと馴染みの友人がそこに立っていた。

「ベルトルト。お前、何処へ行くつもりだ。」

固い口調で話しかけられる。

「......ライナー、ごめん。今、凄く急いでるんだ。」

彼に背を向けて改めて歩き出そうとするが、それは肩を掴まれて叶わなかった。

「離してくれ」

自分の必死さを目で訴えるがライナーは手を離してくれない。

「.....僕は、姉さんのところに行かなくちゃいけないんだ....!」

早くしないと、それだけ姉さんが苦しむ時間が長くなる....!

助けてあげなくちゃ....。僕が姉さんを救ってあげなきゃ....!

「.....アルマの所へ行っても無駄だ。」

「え.....?」

「あいつは今夜ここからいなくなる。.....もう、部屋はもぬけの殻かもしれん。」

.......ライナーは何を言っているのだろう。

姉さんがここをいなくなる?

あり得ない。姉さんが僕に黙っていなくなるなんて。

「......何言ってるんだ、ライナー。」

またいつもの世迷事か?

....でも、胸を這い回るこの嫌な予感は何なのだろう....もしかしたら、本当に.....?

「.....もしそうだとしてもっ....何でライナーがそれを知っているんだよ....!」

「さっき、俺の所にアルマが来て....そう、本人の口から聞いた。」


.........なんで?


固まる僕に、ライナーは簡単な事の顛末を話して聞かせる。

だがその言葉は半分も頭に入ってこなかった。


「何で姉さんは僕じゃなくてライナーの所へ行ったんだよ.....。」
口の端から言葉が漏れた。

「.....恐らく、お前と話せば強く止められると思ったんだろう....」

「当たり前だよ...!!逆に君は何故姉さんを止めなかったんだ!友達じゃなかったのかよ!!」

「.....あまり大きな声を出すな。今が何時だと思っている。」

「何でそんなに冷静でいられるんだよ....」

「.....冷静じゃないさ。.....止めもした。だが....俺の言葉はいつだってあいつを頑なにしてしまう....」

「そんな....じゃあ、姉さんを一人きりにしたって言うの?助けてあげようって....思わなかったのかよ....」

ふとライナーが目を伏せる。そして、低く押しつぶした様な声でゆっくりと言葉を発した。

「俺が.....何も感じていないと思うのか...?俺だってアルマを助けたかった....」

その迫力に少し威圧される。

「.....頼って欲しかった。だが....あいつは、人に助けを求める性質の人間じゃない....。
それは、弟であるお前が一番分かっている筈だろう....?」


しばし二人は見つめ合う。

その沈黙で....ライナーの優しさも、それ故の苦悩も....充分に理解する事ができた。

だが、それでも.....納得が行かない。


「違うよ....ライナーは姉さんの事、何にも分かっていない.....。
姉さんはいつも助けを求めていた....。ただ言葉にしなかっただけだよ.....!」

そう言ってライナーの手を振り払った。肩にかかっていた重みがなくなり、一気に体が軽くなる。

「僕は姉さんの所へ行く。姉さんが僕を嫌がって、拒否しても構わない....!一緒に、帰るんだ...
だって僕と姉さんは....「分かった。もう、言うな。」

ライナーが僕の言葉を遮った。

「.......アルマを、頼む。あいつを....助けてやってくれ....」
お前しか出来ない筈だ、と彼は息を吐く様に言う。

その言葉に無言で頷き、僕は再び軋む廊下を歩き出した。


......そうだ、僕にしか出来ない。

何故なら、僕たち姉弟は.......


 

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