銀色の水平線 | ナノ
◇ ハンジとモブリットと本屋にて 中編

「本屋ですか」


デートというから何処へ行くのかと思っていたら何と行き先は本屋だった。


まあ....ハンジさんのリクエストらしいと言えばらしいが。



「大きい本屋だねえ!凄い、専門書がこんなに沢山!!ちょっとそこの君、本棚の端から端まで全部くれ!調査兵団にツケで!!」

......うちの分隊長は早速フィーバーなさっていた。あー....また予算の使い過ぎでリヴァイ兵長に怒られてエルヴィン団長に渋い顔されるのかなあ....


「モブリット君は何か好きな本は無いのかい?」

背後から急に声をかけられ、思わず肩が震えた。


「え、ええーと.....」

「本は我々の少ない娯楽の内のひとつだろう。好みのジャンルを言ってくれたら探すのを手伝ってしんぜよう!」


ぴしりと人差し指を立てて得意そうに言われる。

未だにシルヴィアへの苦手意識を捨て切れないモブリットは....しどろもどろになりながら「....じ、じゃあ何か流行りのものを....」と、うすぼんやりした返答をした。


それに対してシルヴィアは腕を組んで「私はあまり流行には詳しくないからなあ...」と何かを考える様にする。



「あ、シルヴィア副長じゃないですか」

「うん....?」


ふと、シルヴィアを呼び止める声がした。それに反応してシルヴィアは非常に嬉しそうにする。


「おお、我が愛しのアルミン君!こんな所で会えるなんて嬉しいぞ」

「頭撫でないで下さい。色素が沈着します」

「相変わらずキレッキレに毒舌だなあこのヒラ兵士め」


......モブリットが見た事の無い顔だったが、会話から察するに兵団の新入りの様だ。


えっ......こんなにフレンドリーにして良いものなの...?それともこの少年が礼儀知らずなだけなの!?


「あ...モブリット副隊長、こんな所でお会いするとは....恥ずかしい所をお見せしました」

しかし姿勢正しく自分に敬礼をする様子からは、正規の訓練をきちんと受けて来た事が読み取れる。


(......???)


「ところでアルミン君。何か流行の本でお薦めはあるか?」

「お薦め....。『趣味の盆栽』とかで良いですか?」

「貴様私をどれだけ年寄り扱いしたら気が済むんだ」


微笑を浮かべつつ掴み合う二人には全く地位、そして年の差は感じられなかった。

副長は若いな...いや、違うな....子供っぽすぎるんだ.....。


「第一私へのお薦めじゃない。モブリット君へのものだ!」

急に襟首をつままれて猫の様に新入り兵士の前へ突き出されるモブリット。どうしたら良いか分からず「ど、どうも...」ととりあえず挨拶だけした。


「ああ、それなら....」


アルミンは「ついてきて下さい」と言って背の高い書架の間へと消えて行く。シルヴィアは「ん、行っておいで」とモブリットへ笑いかけた。


「安心すると良い。ゲスい所もあるがとても良い子だ。」

そう言って微笑む姿は先程と打って変わって女性的で落ち着いている。


(.......不思議な人だな)


軽く一礼して、モブリットはアルミンの後を追いかけて書架の間への道を辿った。



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