銀色の水平線 | ナノ
◇ ナイルとチェス 結編

団長室のローテーブルを挟んだ向かいではナイルが額に掌を当てて何かを考え込んでいた。


少しして、押しつぶした声で「..............もう一回だ。」と呟く。


「またか!!もう君が現行で賭けれるものは今履いてる小汚いパンツ位しか残ってないだろうが」

「黙らんか負けたのは何かの間違いだ」

「その間違いが4回も続けば大したもんだ。お前、腕がなまったなあ。」

「エルヴィン!まだ巻き返せるか!!」

「ああ。このままお前が連続で4勝すればな」

「ふふん、それは絶望的だぞお、家庭というぬるま湯に浸かって牙を研ぐ事を怠ったツケだ」

「黙れオールドミス!!」

「ふふん、できないのではない、しないだけだ!!」

「本当かあ?お前に嫁の貰い手等いるものか、いるとしたら蛙くらいだこの両性類賭けても良い!!」


.....いつもの様に立ち上がって二人が胸ぐらをつかみ合うので、その間にあったチェス盤は大いに乱れ、カップの中の紅茶は波紋を作った。


「シルヴィア落ち着け。それにナイル、お前は今回相当部の悪い賭けをしてるぞ」


エルヴィンが二人を宥める様に言う。


「..........は」


彼の言葉に...ナイルは目を瞬かせてシルヴィアを見つめた。


「そうだろう、シルヴィア。」


エルヴィンはにこやかにしながら彼女へと言葉を投げ掛ける。

....最初は不思議そうな顔をしていたが、何かを理解したのか...シルヴィアの顔にはじわりと朱が差して来た。


「おまっ.....何だその反応、もしや....」

ナイルが度肝を抜かれた様にそれを見つめる。


「誰だっ....!!許さんぞ俺に何の断りも無く吐け、吐かんかあああ!!!」

「は、吐く訳無いだろ、というか何の事だかさっぱり分からん、好きな奴なんていない、いないぞこの馬鹿たれがあああ!!!」


この手の会話が大の苦手であるシルヴィアは一目散に窓から逃げ出そうとするが、ナイルはそれを逃さなかった。

腕をはっしと掴んで更に質問を重ねる。シルヴィアの頬を染めていた朱色は今や首の辺りまで降りてきていた。



「うるさいと思ったらまたあいつ等か」

その様子を少し呆れながら眺めていたエルヴィンに、いつの間に訪れていたのかリヴァイが話しかける。


「ああ、リヴァイか。相変わらずの有様だよ」

苦笑しながらエルヴィンは応えた。


「.....今度のゲームはどっちが勝ってるんだ」

机の上に置いてあった、乱れに乱れたチェス盤に目を留めたリヴァイが尋ねる。

「今の所は4勝1敗でシルヴィアだ」

「結局の所....シルヴィアとナイルじゃどっちの方が強いんだ。確か以前はナイルが勝ってたよな」

「さあな....お互い認めたくは無いのだろうが実力は拮抗しているよ。嫌味のレパートリーの多さもね。」

「......飽きもせずよくやるもんだ....」


リヴァイは溜め息を吐き、言い争う二人を見つめるが...ナイルがシルヴィアの腕をがっちりと掴んでいる事に気付くと、微かに目を細めた。


「.....あの二人は似ているんだよ。」

ふと、エルヴィンが呟く。

「似ている....?」

リヴァイはシルヴィアの腕を握っているナイルの掌へと視線を固定したまま応えた。

「昔からそうだ....。」

「へえ......。」

「少し、羨ましいな。」


エルヴィンの最後の言葉は、リヴァイの耳へと届く事は無かった。



「それならチェスでもう一度勝負して俺が勝利したら洗いざらい吐け!!」

「何も吐く事なんか無いと言っているだろうが!!耳聞こえてるのか一回医者に行ったらどうだ勿論耳鼻科じゃないぞ、お脳の方の医者だバァカたれえ!!!!」

「なんだ負けるのが怖いのかぽんこつチキン野郎、ああ煮ても焼いても食えん貴様を例えるには鶏に失礼というものだったなあこの女狐!!??」

「望む所だこれで最後の勝負だからなあ!!??」

「受けて立つともこれで本当に最後だ!!」

「ふふん、貴様お得意の『もう一回』は無しだからな?」

「勿論だ。俺が負ける筈は無い」

「言うなあ。後で泣きを見るぞ」

「見せてみやがれ」

「見せてやるさ」



再びソファへと乱暴に腰を下ろしたナイルを眺めて足を組み直したシルヴィアは、とても楽しそうに白のポーンをひとつ前進させた。



ねっしー様のリクエストより
『リヴァイが見た夢』「訓練兵時代に賭けチェスで(ナイルの)尻の毛までひんむいてやった」のエピソードで書かせて頂きました。



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